絶対に笑わせる生き物

武州人也

下ネタ

「見るものを絶対に笑わせる生き物は何か? って、私はずっと考えてたんだよ」


 頭髪もひげも真っ白な白衣の老爺が、椅子にもたれながら気だるげに呟いた。如何にもマッドなサイエンティストといった風貌のこの老爺は、僕の伯父だ。


「アキくん、キミならどう思う?」

「いやー……ちょっと分からない」


 考えてみたが、すぐには思いつかなかった。


「笑いといえば、下ネタだ。王道だろう。そこで、私は考えたんだ。下品な見た目の動物を組み合わせれば、絶対に他人を笑わせられると、ね」


 ふと、僕は老爺の背後の水槽に目をやった。水族館にあるような、壁に埋め込まれた大型水槽だ。その水槽の中に、何かいる。何か……得体の知れない生き物が、ゆらりと右から左へ泳いでいった。全容はつかめなかったが、見たことのない生き物であったことは確かだ。


「まずこのカワテブクロを見てくれ」


 伯父はタブレットの画面に写真を表示して、僕に見せてきた。そこには確かに、な見た目をした生き物が写っていて、僕は噴き出しそうになった。


「これはヒトデの仲間なんだが……どうだ、にしか見えないだろう。丁寧にまで再現されている」

「うわぁ……」

「さて、次はこいつだ」


 伯父はタブレットの画面をスワイプして、別の写真を表示して見せてきた。


「これ……ヘビ……?」

「そう見えるだろ? これはアシナシイモリという両生類の仲間なんだ。ブラジルで発見された新種だそうだが……もう見た目がアレだろ?」


 この生き物には、先ほどのカワテブクロのような可愛らしさはなかった。ややデフォルメされたようなカワテブクロと違ってこちらは皺とかカリ首まで再現されていて、かなりリアル寄りだ。流石にこれはちょっとグロい。


Atretochoana eiseltiアトレトコアナ・エイセルティっていうアシナシイモリだ。全長七五センチメートルになる大型のアシナシイモリだから、オトナのオモチャには使えんだろう」

「うへぇ……ちょっと気持ち悪い……」

「そこで、だ。私はこの二種を組み合わせた融合生物を作ってみた」


 伯父の背後の水槽には、そのと思しき生物が泳いでいた。カワテブクロの腕部の一つが先のアシナシイモリになっている、怪物としか思えない生き物だった。それが、何匹もゆらゆら水中を漂っていた。

 率直にいって、気味が悪すぎる。僕は全く笑えなかった。


「男子のアレだけじゃ何だから、女子のアレもあるぞ。水槽の底を見てみろ、アワビがたくさん転がってるだろ。こいつの主食はアワビだ。中に頭を突っ込んでムシャムシャと……」

「もういいよ! そんなんだから学会を追放されるんだろ!」

「失礼な! 学会を追放されたのは忙しすぎて学会費の請求書を放置してたからだ!」

「ダメ人間じゃないか! 別の意味で!」


 僕の叫びをよそに、怪生物は水槽を気ままに泳いでいた。

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