美少女天使の告白受けたし、勇者なるわ!

ムツキ

序 章・天使に落下

◆ 1・いきなり告白とかされたんだが、どうする? ◆


 それは空を割って現れた。

 厚い灰色の雲は、カーテンを引き開けたように青空と光を地上に降り注ぐ。


 新手の出現を予期し、握った剣も軋む。

 天候まで操る敵となれば、ルーファことミハイル・ルファ・ミンターにとっても不足はない。街道沿いの横道、足元に広がる屍は白く巨大な体躯の獣たちだ。散乱する肉片は青い血に塗れている。

 三月上旬の寒さも、高揚した気分には意味を為さない。


「いいぜ、来いよ」


 短く刈り込んだ髪、鋭い瞳、精悍せいかんな顔立ちに加え、しなやかな筋肉が巻き付いた体は大剣すらも自在に振りこなす。

 己でも自覚する程に顔もスタイルもイイが、いかんせん『見た目』が悪かった。いや、正確には色だ。

 髪の色も瞳の色も、全てモンスターとして知られる色だ。

 モンスターと同じ白い毛と、赤い瞳――更には職業軍人家系で育った為、二十歳にして並ぶ者はいない程に強い。

 強さを誇示するかの如く、鎧すらつけぬ旅装。

 肥大した自尊心と強さへの自負、そして武力への心酔。



 望むところだっ。

 何が来ても、切り裂いて、細切れにして、地面に……!?



 割り開いて降るのは白いもの。

 雨粒よりはるかに大きい塊だ。降る陽射しとは別次元の勢いを持って――それは地面に落下した。

 微かな振動、土埃。

 衝撃で窪みができている。


 まず見えたのは翼、小さな白い翼だ。

 そして白い布を纏った体は少女というには育ち、女というには幼く見える。背を滑る長い金髪が揺れ、彼女が顔をあげる。

 土とルーファが散らかした青い血を頬や額につけている。汚れていても、まるで白光しているように美しい顔が、青空のような瞳が、彼を見つけてふんわりと緩む。


「ゼィスト、イゥスヒートィス……」


 よく聞き取れず問いかけようと口を開いた時、彼女が告げる。


「好きです」



 スキ?

 すきって、……『好き』ってことか?? いわゆる好意?! 一般的に『良い』の意味で使われるアレ?! 男女が付き合う時に発するという伝説の『告白』ってやつなのか?!

 俺様……今、もしかして……っ、伝説の瞬間に立ちあってる?!

 いわゆる俺様伝説スタートの瞬間?!



 吹き荒れる激情のままに口を開きかけ、慌てて閉じる。

 いかにも可愛らしい娘を前での言動は細心の注意が必要だ。そう、士官学校の先輩から習った覚えがある。

 彼らの教えによると『がっついたら、引かれて永久にさよなら』が待っているらしいのだ。

 ルーファは教えには忠実だった。

 彼は冷静に言葉を選んだ。発するべきは疑問の提示である。


「え?」


 だが敵もさるものながら、秒すらかけずに告げる。


「貴方が好きです」


 手から武器がすべり落ちる事もいとわず、ルーファは心臓のあたりを両手でかばう。

 それはもう戦士の本能だった。フェイントで油断を誘い、確実に急所に当ててくるスタイルは素晴らしいとしか言いようがない。彼女が狩人ならば、ルーファは死んでいただろうと、冷や汗も零れる。

 そして何より、言われた言葉だ。



 好き……って、やっぱり『好き』だったのか?! 間違いじゃないっ、これやっぱ伝説の瞬間ってやつじゃん!!!! 俺様、伝説に立ちあってる! すげぇ、マジすげぇ、『告白』ヤバい……!

 これが最終兵器言語!!!!

 親父、俺様ついに大人免許、皆伝への道を手にしたぜ!!



「あのね、手伝わせてほしいの」


 彼女の二言目はよく分からなかったが、今大事なのはそこではない。ルーファははっきりと言葉にした。


「芽生えるわ、愛」


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