第六感探偵
あーく
第六感探偵
「一度身の回りをよく見なさい。そうすれば探し物は見つかるはずよ」
「ありがとうございます」
彼女の名前はミラクル
幼い頃事故に遭い、その日から霊感に目覚め、透視、千里眼、霊視などができるようになった。
これらの霊能力を活かし、今日も迷える子羊たちを助け――プツン…
「ああ~!何するんですか先輩!いい所だったのに!」
「そんなもの見てないで仕事しろ」
「いいじゃないですか!今日もお客さん来ないんだし!」
蛇原はノートパソコンを開くと、ゲームを始めた。
「おい、ソリティアしてんじゃねぇよ」
「じゃあTV点けてくださいよ」
「占いじゃなくて資格勉強でもしたらどうだ?なんで女はそんなに占いが好きなのかねぇ?」
「大きなお世話ですぅー!しかも彼女は占い師じゃなくて探偵ですぅー!」
「あんなスピリチュアル探偵なんて俺は認めん」
「でも私たちよりも人気ですよ?」
鮫島と蛇原は探偵業をしているが、人気の蝶野に仕事を奪われ、暇を持て余している。
「おい。クーラーがついてるんだから扇風機はいらないだろ」
「しょうがないじゃないですか。今日も暑いんですから。体は大きいのに細かいところには敏感なんですね」
「大きなお世話だ。これだけ冷えていればもう十分だろ。切るぞ」
鮫島が扇風機の電源を切った途端、蛇原は気配を感じ、事務所の入口の方を向いた。
鮫島は蛇原に尋ねた。
「お客さんか?」
「ええ。あ、子供みたいですよ?先輩だと怯えちゃうので私が対応します」
「……お前の言い方、たまに毒があるよな」
10秒ほど沈黙が続いた後、事務所内にノックの音が響いた。
鮫島はノックの音に答えた。
「どうぞ」
ドアが開くと、小学生くらいの女の子が入ってきた。
「すみません。ちょっと相談があるんですけど」
蛇原は目の高さを女の子に合わせてかがんだ。
「どうしたの?」
「このまえパパとママとBBQに行ったときに、チベちゃん落しちゃったの」
「チベちゃん?」
「ほら、この子だよ」
女の子は携帯電話を取り出し、蛇原に写真を見せた。
(これってチベットスナギツネ……?なんてマニアックなものを。ていうか今の子ってバーベキューをBBQって言うのね)
写真には、チベットスナギツネのぬいぐるみを両手に乗せた女の子の写真が写っていた。
ぬいぐるみの頭には紐がついている。
「鞄につけていたんだけどね、落しちゃったの」
「きっと頭の紐が取れちゃったんだね」
すると、鮫島が横から割り込んできた。
「よし、探しに行くぞ。あのインチキ占い師には負けてられないからな」
女の子は不思議そうな顔をして言った。
「占い師?そういえばママが『ミラクル蝶野』っていう人に聞いてみたら、『探す前に少しパワーをためるから待ってて』って言ってたんだって。いつまでたっても探してくれないからこっちに来たの」
鮫島は張り切って言った。
「じゃあ、俺たちがあいつよりも先に探し出してやるよ」
鮫島と蛇原は、女の子がBBQをしたというキャンプ場へ向かった。
目的地までは数キロしかなく、車ですぐに到着した。
車から降りると、鮫島は呟いた。
「人探しやペット探しは得意なんだが、物探しは少しキツいかもな」
「うーん……。確かに難しいかもしれないですね。人やペットだったら生き物なので、私たちの
「確かお前の
「そうですね。ほら、ヘビっているじゃないですか。ヘビって熱を感知する独自の器官を持っていて、それを使えば夜でも獲物の場所が分かるんですよ」
「ほぉー。そうなのか」
「ちなみにその器官は人間にも名残があって、先輩にもありますよ」
「マジか。俺も熱探知とかできちゃうわけか」
「でも人間はこの機能が退化しちゃってて、今はワサビの刺激しか感知できないんですがね」
「毛ほどもいらねぇ」
蛇原はサーモグラフィーのように、生き物や物体が持つ熱を感知することができる。
この能力があれば、事務所内にいながらも来客が分かったり、人数、おおよその身長も分かったりする。
「先輩。スピリチュアルがどうのこうの言ってた癖に
「まあ、そう言うな。俺たちはあいつとは違って、ただの直感でやってるわけじゃないんだ」
すると、蛇原は鮫島の肩に湿布が貼ってあるのに気付いた。
「そういえばその肩どうしたんです?肩こりですか?」
「ああ、これか?これは磁気湿布だな」
「いや、だからそれもスピリチュアルじゃないですか」
「理由はよくわからんが、この磁気湿布があると俺の
「あー、先輩の
「そうだな。俺は筋肉から発生する微弱な電気も感知できる。だから生き物探しは得意なんだが――」
「サメと同じですね」
「ああ。だが、この第六感(スキル)も厄介なもので、電化製品が近くにあると頭痛が酷ぇんだ」
「だから電気にうるさいんですね」
「探索場所が山奥でよかったぜ」
「私もこの
「おい、アレってなんだ」
しかし、二人がいくら探しても見つからなかった。
「見つからねえなー」
「そうですね。辺り一面熱を持ってるんで完全に『熱探知』が死んでます。ちょっと暑いので水買ってきますね」
「おう、気を付けてな」
鮫島は、蛇原が水を買いに行くのを見送ると、このキャンプ場に客が増えていることに気付いた。
日はもう傾いていた。
「なんだ、もうこんな時間か。みんなキャンプに来たんだろうな」
すると、黒ずくめの男二人の会話が鮫島の耳に届いてきた。
「なかなか見つかんねえなあ」
「ああ。確か何とかキツネって言ってたな」
鮫島は疑問に思った。
(キツネ?ここら辺に野生のキツネが出てくるのか?)
会話は続いた。
「早くしないと日が暮れちまう。蝶野さんに怒られるぞ」
鮫島は衝撃を受けた。
(蝶野だって!?どうしてあのインチキ占い師の名前が!)
すると、蛇原が鮫島の元へ駆け寄ってきた。
「せんぱーい!ありましたよ!チベちゃんのぬいぐるみ!」
「おい!蛇原!来るな!」
鮫島が叫んだ頃には手遅れだった。
先ほどの二人組が蛇原を取り囲んでいた。
「ようお嬢ちゃん。それは俺たちが探してた物なんだ。返してくれるかな?」
「なんなんですかあなたたちは!これは女の子の――」
男は蛇原の腕を掴んだ。
「つべこべ言わずに渡せっつーの」
次の瞬間だった。
鮫島の拳が蛇原の腕をつかんでいる男の頬をめがけて飛んできた。
男は頬を抑え、地面に手をついた。
「……痛ってえなぁ!」
「その子に触るな」
黒ずくめの男二人は鮫島を囲んだ。
「俺らの邪魔をするなら、痛い目を見ても知らないぜ」
鮫島は身構えた。
その瞬間、男が後ろから殴りかかってきた。
鮫島は振り向きもせずその拳を掴み、背負い投げを決めた。
男の背中が地面に激しく叩きつけられる。
もう一人の男は怯えている。
「な…なんで後ろから来ることが分かるんだよ!後ろに目でもついてるのかよ!」
鮫島は冷静に答えた。
「動物が動くとき、筋肉に電気信号が送られる。その電気信号を感知すれば次の動きが予測できる」
「はぁ!?何言ってっかさっぱりわかんねえよ!」
「今の説明は難しかったな。じゃあ簡単に説明しよう。俺は柔道の黒帯だ。それでもやるか?」
「やってらんねぇ!帰ろうぜ!」
黒ずくめの二人組は去っていった。
「先輩、ありがとうございました」
「礼には及ばん。それよりもぬいぐるみが見つかったんだってな。どうやって見つけたんだ?」
「逆だったんです」
「逆?」
「物体が熱を放出することばかり考えていました。でも、ぬいぐるみが布製だということに気付いたんです。布は熱を吸収しにくいんです」
「そうか!」
「熱い物ではなく、冷たい物を探したら、ちょうどぬいぐるみのような物体が感知できたんです。この暑さで地面がかなり熱くなっていたので簡単に見つかりました」
「お手柄だぞ!蛇原!」
「それにしても、さっきの人達は何だったんでしょうか?」
鮫島は先ほどの出来事を説明した。
蝶野は恐らく金で人を雇い、調査することで霊能力を装っていることが予想できた。
すると、鮫島の予想は的中し、後日蝶野のスキャンダルが報じられた。
それからというもの、蝶野は芸能界から姿を消した。
「いやあ、今日も暇ですね。ライバルが減ったのにおかしいですね。いっそのこと、うちらも『超能力者』とか肩書つけちゃいましょうよ」
蛇原はノートパソコンでネットサーフィンをしていた。
「いや。このままでいいんだ。問題に真剣に向き合っている人は、そんな非現実的な物は求めていないはずだ」
「ふーん」
「それより蛇原、扇風機はいらないって言ってるだろ?」
蛇原は不満そうな顔をした。
「わかりました。切りますよ」
蛇原が扇風機の電源を切った途端、人の気配を感じた。
一人ではなく、複数人の気配だった。
「たくさん人が来ましたね。誰かが口コミを広げてくれたんでしょうか?」
「何人でもいいさ。気合入れていくぞ」
10秒ほど沈黙が続いた後、事務所内にノックの音が響いた。
蛇原はパソコンを開いたまま、入口の方に歩いていった。
パソコンの口コミサイトにはコメントが書かれていた。
『★★★★★ ぬいぐるみを見つけてくれてありがとうございました』
第六感探偵 あーく @arcsin1203
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