虫からのお知らせ

九戸政景

虫からのお知らせ

「それじゃあ、行ってきます」

「行ってきまーす」


 雨が降りそうな雲で空が覆われる朝、俺はいつものように両親に声を掛けてから妹と一緒に外に出ると、空模様を気にしながらゆっくり歩き出した。


「あー……なんか嫌な感じの空だな」

「うん……天気予報だと一日中曇りみたいだけど、これは降りそうかな。お兄ちゃん、傘って持ってきてる?」

「持ってきてるけど……お前なぁ、いつも俺任せじゃなく、自分でも傘くらい準備しろよ。朝飯食いながら天気予報観てるんだからさ」

「そうだけど、お兄ちゃんの方が確実だから。流石は友達からも頼られる第六感の持ち主だよね」

「第六感の持ち主、ねぇ……」


 妹の言う通り、俺は世間一般で言うところの第六感的な物を持っているという事で、家族や友達からその日の天気などについてなにかと聞かれる事が多い。

ただ、俺に備わっているのは正確には第六感じゃなく、その事を妹も知っているのだが、それを言葉にして説明するよりは第六感だと言った方が楽なのでそういう物だと言う事にしていた。


 まあ、本当の事を話した方が信じてもらえないし、この方が楽なのは間違いないよな。


 そんな事を考えながら歩いていた時、近くから小さな話し声が聞こえ、俺は立ち止まり、その話し声に耳を澄ませた。


『この感じだと……昼頃から雨が降るな。仕方ない。餌は別の所で捕る事にして早めに巣は片付けるか』

『それが良さそうだ。また巣を張るのは苦労するが、張ったままで雨に降られても困るからな』

「……なあ、雨が昼から降るのはたしかか?」

『ん……ああ、お前か』

『確実……とは言えないが、高確率で降るだろうな』

「そうか……わかった、ありがとうな」


 俺がお礼を言っていると、その様子を見ていた妹が不思議そうに話しかけてくる。


「もしかして……また虫からのお知らせ?」

「……今回は報せてくれたわけじゃないけどな。昼から高確率で降るらしいぞ」

「そっか。お昼からならまだ安心かな」

「まあな。さあ、早く学校に行くぞ」

「はーい」


 妹が返事をした後、俺達は再び歩き始めた。俺に備わっているこの虫の言葉が理解出来て話が出来るという能力が何故あるのかは未だにわからない。

けれど、妹が命名したこの『虫からのお知らせ』にはなにかと助けられてきたため、これからも付き合っていくつもりだ。恐らく、俺がこれを持っているのは何か理由があるのかもしれないから。

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虫からのお知らせ 九戸政景 @2012712

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