夢を叶える男【第7話 秘密】

カンダミライ

第7話 秘密

 それからは週に1回のペースで、主に土曜日の昼にデートを重ねた。平日は遅くまで残業で、日曜もたまに出勤することがあるらしく、自然とこの時間になっていった。 


 僕は彼女の僕にだけ見せてくれる笑顔と、一人の人間として誠実に向き合ってくれるところに惹かれていった。初めてイベントであったときのあのどこか寂し気な表情は、単にあの場に馴染めていなかっただけだったなのかもしれない。


 そして5回目のデートで、僕は告白しようと決めていた。あれこれと告白の台詞をネットで調べ、昔のゲツクも動画で見て勉強したが、下手な小細工はやめ、本番一発勝負の賭けに出ることにした。


 今日は彼女が午前中に急に仕事が入ったらしく、珍しく夜に食事に行くことになっていた。


 最近評判のイタリアンのお店をあとにし、臨海公園を歩いていると、潮風が心地よいベンチがある。もう少しお話しませんか?と並んでベンチに座り、しばらくは他愛のない話をする。


 しばらくして僕は切り出した。

 「僕は、小さい頃に母に捨てられたことがトラウマで、それ以来女性を心の底から好きになることができずにいました。でも今は違います。僕はあなたが好きです。一人の人間として僕はあなたを愛しています。」


 勢いで言ってしまったが、冷静に考えるとよくも自分の口からこんな台詞が出てくるもんだなと赤面した。オリジナルのつもりだったが、少なからずゲツクの影響もあるのかもしれない。


 僕の言葉を聞くなり、彼女の頬には大粒の涙が伝っていった。僕は面喰らってしまい、どうしようかおろおろしていると、涙を拭いながら彼女が俯いた。


 「私も、木嶋さんに黙っていたことがあります。私は以前、夫を亡くしているんです。」


 衝撃だった。頭が真っ白とはこういう状態をいうのだろう。そもそも彼女に結婚していた過去があるのも初耳だし、その旦那が亡くなっていたなんて、寝耳に水意外の何者でもない。


 なおも彼女は続ける。


 「結婚したのは27歳のときでした。前の会社の先輩で5つ歳上の方です。主人との関係は順風そのものでした。いつかふたりで小さなレストランをやりたいね、なんて夢みたいなこと言っちゃって…。そのことが主人に無理をさせたのかもしれません。ただでさえ忙しい職場なのに、主人は早く開業資金を貯めないとね、と言ってそれまでよりもっと残業をするようになりました。

でも、その無理が祟ってか、結婚して1年で心臓発作で…。私が、あんな馬鹿げた夢を口にしなければ、主人は…。」


 それから先はもう言葉になっていなかった。


 僕はなんとか彼女をなだめようとした。


 「辛かったですね…。そんな想いをずっと一人で抱えていたなんて、気がつかなくて、本当に申し訳ないです。せめてその苦しさ、少しだけでもいいです。僕に分けてはもらえませんか?僕があなたを愛しているということは変わりません。今度は僕が、死ぬまであなたを守ります。」


 こうして僕らは結ばれることとなった。しかし彼女の希望で、籍を入れるのはもう少し先がいいということになった。亡くなった前の旦那にも気を遣っているのだろう。


 四宮さんに報告したら、自分のことのように喜んでくれた。これから僕たちをより幸せにするためのプランも一緒に考えましょうと言ってくれたが、現状で満足しているため、これまで通っていた教室も全てキャンセルし、何かあればこちらから連絡すると話すと、快く了承してくれた。


 相変わらずデートはどこかに食事に行くことが多かった。彼女の家に行ってみたい気持ちはあったが、散らかっているからと、いつもやんわり断られる。僕の部屋は…というと、こちらも自慢ではないが、人を呼ぶには大掃除では足りないほど散らかっている。古本屋巡りも大概にしないとなと思いながら、まずは文庫本の整理から始めようかと考えた。

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