Season 1-4

青と青年と僕。

 “赤の国”から、地下電車という乗り物に乗って、僕たちはここ、“青の国”に来ていた。なんでもここは、昔あった戦いか何かで気候が変わったらしく、地上はとても寒い場所になったらしい。

 それからは、こうして地下に街を作って暮らしているんだって。なかなかに珍しい国だ。


 なぜそんな場所に来たのかって?

 それは先日、ママさんに「四天王に会いたいんです!」と勇者が言ったことから始まった。ママさんの話だと、四天王、いや魔王軍が主に活動しているのは“白の国”というところで、そこに行くには、全部の国のパスが必要なんだって。

 ママさんの好意で“青の国”へのパスを買ってもらって、僕たちはやって来たというわけ。


「大陸間パスのお金、どうしようか」


 いくら好意で買ってもらったとはいえ、次の国に行くには結局のところお金がいる。ここにしばらく滞在するかもしれないし、なおのことだ。

 そうして地下を当てもなく歩いていく。街中に電灯があって、まるで太陽みたいだななんて思っていると、


「あ、見てください!」


と武闘家が少し大きな建物を指差した。円形状の建物の出入口に長机を出して、おっさんが暇そうに欠伸をしている。


「んー? 武道大会? 賞金は……、ご、ごじゅうまんルク!?」

「パ、パス代どころか、しばらく依頼を受けなくても生活できますよ!」

「……」


 三者三様の反応に、勇者は「ね、すごいね」と朗らかに笑って、おっさんに「すみません」と声をかけた。


「僕たち、大会に出たいんですが」

「お、誰と誰が出るんだい?」


 勇者はすぐに「僕とクライフ、えと彼で」と伝えると、武闘家に僕を渡した。


「フロイを頼むね」

「はい、頑張ってください!」


 意気込む二人はそのまま中へ入ろうとしたけど、おっさんが「待った待った」と止めたから入れなかった。


「今はまだ受付期間中だ。大会は明日行われるから、観光でもしてきな」


 そう言われ、観光名所が書かれた紙きれを渡された。

 観光しろと言われても、僕らはお金がない。ご飯を食べようにも、宿で休もうにも、そもそもとして手持ちが少ないのだ。


「やべ、腹減った……」

「クライフさん、しっかりして下さい! こんな時しか役に立たないんですから!」

「そりゃねーだろ」


 そうは言っても、武闘家だって鳴るお腹を誤魔化せていないじゃないか。僕には聞こえてるんだからな。


「でもどうしようか。明日なら、宿に泊まるお金も必要だし」


 勇者もお腹を押さえて苦笑いした。僧侶が懐から薬草を一枚ずつ配ってくれた。腹の足しになるかはわからないけど、まぁ無いよりマシ、かな。


「何か依頼探しませんか? 簡単なもので、すぐに出来るような……」

「そうだね。じゃ、酒場に行こうか」


 武闘家の提案に勇者が賛成して、僕らは酒場に行くことにした。途中で魔法使いが息絶えて、僧侶に担がれたんだけど。

 街の人に道を聞きながら歩いていって、ガヤガヤと賑やかな通りに出た時だ。


「ギャッ」


 少し先の建物から勢いよく酔っ払いが出てきた。いや、出てきたというより、蹴り飛ばされたっぽい?


「おい。今度オレを女だとぬかしたら、てめぇの目潰すぞ」


 物騒な言葉遣いで出てきたのは、息を呑むようなすごく綺麗な人だった。けれど着ている服を見るに、この人は女の人ではなく、どうやら男の人らしい。


「ひ、ひぇ。許してくれよ、ちょっと間違えただけじゃねぇか」


 あれ? この酔っ払い、どっかで見たことあるぞ?

 見覚えがあるのは僕だけじゃなかったようで、勇者もしばらく酔っ払いを見つめた後、思い出したように手をポンと打った。


「あ! あの時の!」


 あの時? あ、赤の国で汗と涙のドッチボール大会をやったあいつか。確か、そうだ、エリックだ。

 僕だけでなく、魔法使いも思い出したのか「あー」と頭に手をやって唸った後、にやりと意地の悪い笑い方をした。


「こーんなひ弱そうな野郎にぶっ飛ばされるとか、お前弱っちーなー」

「ちょ、ちょっとクライフさん」


 僧侶が魔法使いをポイと投げ捨てる。

 そのまま魔法使いは綺麗め野郎に足蹴されて、エリックと同じようにぶっ飛んでいった。なんでこいつは、こう、いつも余分なことを言うんだろう。


「で? 誰がひ弱だって?」

「ま、待ってください! クライフがすみませんでした! お腹が空いて頭がちょっとおかしくなってて」


 いや、あいつはいつも頭おかしいだろ。マトモな時ってあったかな。


「腹、ねぇ」


 その綺麗な野郎は顎に手をやって、倒れたままの魔法使いを眺めた後、何か楽しいことを思いついたようににやりと笑った。


「食わせてやんよ。入んな」


 酒場に入れと示す綺麗な野郎に尻込みしつつも、腹が減ってはなんとやら。僕らは大人しくついていく以外の選択肢はなかった。

 ちなみにエリックはそのまま放置した。

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