僕と勇者の異聞奇譚 〜最弱の僕は魔王よりも先に勇者を倒したい〜
とかげになりたい僕
Season 1-1
勇者と猪と僕。
フワリン。
それはこの世界、ハイスヴァルムによくいる魔物。
見た目はそうだな、手の平に乗るくらいの球体で、点みたいな目、それから三角の耳、もふもふっとした短めの体毛。毛色は色々あるんだけど、僕は緑色。あ! 足とか手はないから、跳ねる感じで移動するよ。
あと、ちょっと話すのが苦手。
昔はたくさん仲間がいたんだけど、僕らは弱いし、可愛くてペットに向いてるからって、人間たちに乱獲されてしまった。今では絶滅危惧種さ。
でも僕は違う。
可愛いからという理由で、僕を仲間にした勇者に、懐いているフリをして、油断させて、倒してやろうと日々作戦を立てているわけ。勇者を倒したら、僕は弱くないってこと、証明できるしね。
これはそんな僕が、勇者を倒そうとする間の、ほんのちょっとのお話だよ。
※
ポカポカ陽気の今日この頃。
僕はぼーっと空を眺めながら、あぁ明日も天気かな、気持ちいいなぁなんて思ってた。こうもポカポカしていると、段々眠くなってくる。
目を細めてのほほんとしていると、いいお天気に全く合わない声が響いてきた。
「
「任せとけって!」
声のほうを見ると、二人組が少し小さめの猪を追いかけ回していた。
「おら!
そう言って、持っていた木製の杖をぶん回して、見事猪に当てたのは、黄色の髪の魔法使い。髪を低くひとつにくくっていて、チョロっと尻尾みたいになっている。あんなので可愛さアピールのつもりだろうけど、僕のほうが断然可愛い。当たり前だ。
伸びた猪に近寄って、清々しい笑顔を浮かべているのが、僕が倒すべき相手、勇者だ。栗色の短い髪、髪と同じ色の純粋な目。額から汗が落ちるけど、絵になってるし、やりきった顔をしているのも憎い。
「すごいよ、クライフ! やっぱり君の魔法はすごいや!」
今のどこに魔法要素があったんだろう。
けれども魔法使いは「そうだろ」とウンウン頷いている。本人もあれを魔法だと言っていることに、なんの疑問も持っていないらしい。
「これで今日の飯にありつけるな……っと。おーい、終わったぜー!」
魔法使いが杖を僕にブンブンと振る。まぁ、僕というより、僕の後ろにある岩陰に隠れている二人に、だ。
「おおお終わりました!? 猪なんて小さくても危険なんですよ!?」
ビクビクと顔を出してきたのは黄緑色の髪に、花の髪飾りをつけている自称武闘家。
こいつ、武闘家のくせに前線に立っているのを見たことがない。いつもこうやって、勇者と魔法使いが戦っているのを見ているだけだ。全く、武闘家の名が台無しだよ。
「大丈夫だよ、
勇者は、腕をぐりぐり回してにこやかに笑ってみせる。そんな様子の勇者に、同じように岩陰に隠れていた痩せこけたおっさんが駆け寄って薬草を手渡した。ちなみにこのおっさんが僧侶だ。無口だし、こうやって薬草を配るだけの簡単なお仕事をこなすだけの存在。
「ありがとう、
「……」
「そう?じゃ、これからも遠慮なく薬草もらうよ」
待って。今のどこで会話が成り立ったの!? 僧侶何も言ってないけど!?
勇者と僧侶をガン見するも、僕には全く意思疎通が出来そうにもない。
すると、見ていることに気づいた勇者が僕に跪いて、優しく両手で僕を持ち上げた。優しい笑顔が視界いっぱいに広がる。
「フロイもありがとう。ごめんね、怖い思いをさせて」
違うけど。
あんな弱っちそうな雑魚に、僕が出るまでもないと判断しただけだし。決して踏み潰されそうで怖かったとかじゃ、ない。
けれども、あんな雑魚でも勇者がやられてしまっては元も子もないと思って、それだけは言っておこうと思う。勇者は僕が倒すんだし。
「ゆうちゃ、だめ」
「どうしたんだい、フロイ?」
「ちぬの、だめ!」
「フロイ……」
一瞬勇者が驚いたように目を丸くして、それからさっきよりも嬉しそうに、それこそ花でも咲きそうな笑顔を向けて、僕をぎゅっと抱きしめた。
「ふごっ、ふごふご!」
「フロイ! なんて優しいんだ! もう本当に嬉しいよ!」
「ふごー!」
こっちは嬉しくない。死にそう。
「こら、
気づいた武闘家が止めて、しまったとばかりに勇者が僕を離してくれた。窒息死させようだなんて……なかなかこいつ考えてるな、流石は勇者。
「あはは、ごめんな、フロイ。でも僕嬉しかったんだよ」
少し咳き込む僕を知ってか知らずか。
勇者はさて、と頭に僕を乗せた。こう見えてバランス感覚はいいから、これくらい僕にとって屁でもない。
「猪の目が覚めない内に、早く町へ戻ろう」
「よっしゃ! 飯にしようぜ、飯! 肉が食いてー!」
「野菜もちゃんと食べてください! レイシィさんみたいになれないですよ!」
「……」
野菜を食べてああなるなら、僕は絶対に食べたくない。
軽々と猪を担いだ僧侶を横目で見ながら、今日はどのタイミングで攻撃してやろうかと考える。
そう。
これは僕が、勇者の魔王を倒す為の旅について行って、あわよくば勇者を倒す。そんな小さな小さな、僕の、僕たちの物語。
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