第59話
☆☆☆
周囲の田畑が見えた時、あたしは戻って来たと感じられた。
「これだけじゃ悪魔は死なない。だけど、音楽だけで効果はあったから……」
「この山を、もっと楽しい山に変えて行けばいいんでしょ?」
あたしは照平の言葉に続けて言った。
悪魔山と呼ばれ、みんなに恐れられてきた山。
そんなイメージを壊すようなことを考えればいいんだ。
フェンスを取っ払って、人の行き来を再開させれば楽しいことも増えるはずだ。
簡単じゃないけれど、きっとできる。
「手始めにラジカセでも借りてきて、ずっと音楽を流しとくか」
息を切らしながら、透が冗談っぽくそう言った。
「それいいね。一番簡単にできる」
少し余裕が出て来た梓もそう返事をした。
マイナスなことは誰も一言も言わなかった。
それを言ってしまうとまた悪魔に力を与えてしまうからだ。
「そういえば昨日のお笑い番組見た?」
あたしは思い出してそう言った。
笑い声の数だけ、黒い雲が遠ざかって行く。
山の中に、大げさなくらい響き渡る4人分の笑い声。
山頂からソレの悲鳴が聞こえて来た。
一瞬、振り返ってしまいそうになったけれど、グッと我慢した。
あたしはもう振り向かない。
もう1度この山に来るときは、きっと楽しい気分のときだ。
くぐってきたフェンスを抜けた時には、雲はすっかり晴れていた。
山を見上げてみるといつもよりも輝いて綺麗に見える。
「こんなに綺麗な山じゃん」
あたしはそう呟いた。
サイトに載せられている悪魔山は、どれも物々しい雰囲気が漂っていた。
怖い噂が立っているから、わざとそう言う風に撮ったのだろう。
あたしは悪魔山の綺麗な様子をスマホカメラに収めた。
家に戻ったら、これをSNSに投稿しよう。
「ねぇ、このフェンスを破ったのって照平?」
ふと立ち止まり、梓が言った。
「え? 俺が来たときにはもう破れてたぞ? お前たちじゃなかったのか?」
照平が瞬きをしてそう聞いて来た。
あたしたちが来た時にももう、フェンスは破れていた。
その後照平が来たのなら、その前に先客があったということか……。
「……ねぇちょっと待って」
恐れてはいけない。
恐れれば悪魔に力を与えてしまう。
それでも、あたしは背後に寒気を感じた。
「今ここにいたのはあたしの産んだ悪魔だった。でも、悪魔は一体じゃないよね?」
願いを聞き入れるために産れた悪魔。
そして、本体がいるはずだった。
山に入ったときに見たのは本体ではなく、赤子の一体……。
「ねぇ、やっぱりおかしいよ。このフェンスだってさぁ」
そう言った次の瞬間。
梓の頭が爆発するように、音を立ててはじけ飛んでいたのだ。
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