第58話

「怖がるな!!」



ソレがあたしへ牙をむこうとしたとき、そんな声が聞こえて来た。



ハッとして視線を向けると、透たちより向こうに照平の姿が見えた。



ソレの動きがピタリと止まる。



「友里たちの考えは間違ってない! そいつは人々の恐怖心でできてるんだ!」



「照平……」



照平は一冊のノートを手に持ち、こちらへ見せた。



「友里たちから話を聞いて、すぐに両親の私物を調べたんだ。なにかヒントがないか……。このノートは俺の父親が書いた日記だった」



照平のお父さんの日記!?



そんなものが残されていたなんて!



「10年前、俺の父親もこの悪魔山を訪れて、悪魔の子供を授かった。願いは母親を事故死させること」



照平は強い口調でそう言った。



恐れも悲しみも少しも感じさせない口調だ。



「願いは聞き届けられた。けれど、悪魔はそれ以降も成長する。父親はわが子に跡形もなく食い殺され、街の人々も犠牲になっていった」



そこまで言い照平は言葉を切った。



「俺の父親は許されないことをした。だけど、この日記には悪魔をの弱点が書かれてたんだ!」



その言葉に、ソレがたじろいたのがわかった。



わずかに手の力が緩んだ。



「ごめんね」



あたしは小さな声でそう言うと、ソレの手に思いっきり噛みついた。



不意を突かれたソレが鳥の悲鳴のような声を上げてあたしを振り落とす。



2メートルほどの高さから地面へと叩きつけられて、一瞬息ができなかった。



だけど幸いにもここは土の上。



どうにか体を起こす事ができた。



「友里!」



透がすぐに駆け寄って来て支え起こしてくれる。



「化け物を殺す方法って!?」



叫ぶようにしてそう聞くと、照平がスマホを取り出して大音量で音楽を流し始めたのだ。



最近流行っているノリのいい曲。



「俺たちはお前を恐れない。むしろ愉快だ」



照平はそう言い、大音量で流れる音楽をソレへ向けた。



するとソレが数歩後ずさりをした。



マイナスの感情でできた化け物は、人間の陽気な音楽や笑顔に弱いのだ。



「あたしたちも音楽を!」



そう言い、すぐにスマホを起動させた。



落ちた拍子に壊れてしまったかと思ったが、あたしのスマホも起動してくれた。



4人で同じ音楽を、大音量でソレに聞かせる。



それがギャアギャアと悲鳴を上げて苦しみ始めた。



「いいぞ。みんな、今の内に逃げよう!」



照平が山道を駆け下りる。



あたしは苦しむソレを見て一瞬胸が痛んだ。



どんな化け物でも、自分のお腹から出て来たのだ。



そう思っても止まっている暇はなかった。



「さようなら」



あたしはそう言い、音楽を流しながら山を下りたのだった。

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