第36話

☆☆☆


昼まで周辺を探してみても、ソレを見つけることはできなかった。



胸の中に広がって行く孤独感。



あたしは自分のお腹にそっと手を当ててみた。



もうぺったんこになってしまったお腹。



ソレが化け物だとわかっているけれど、それでも自分のお腹の中から出て来たのだ。



誰かに寄り添われ、誰かに必要とされることで、あたし自身も救われていたのだ。



あたしは1人じゃない。



この子がいるからと……。



そんな糧を失ってしまっては、そう簡単に立ち直る事はできなかった。



あたしは一度家に戻り、私服に着替えてから再度探しに行くことにした。



昼間は家に誰もいないから、怒鳴られる心配もない。



そう思い、玄関に入った瞬間だった。



なにか生臭い匂いが鼻孔を刺激して顔をしかめた。



なんだろう?



何度か嗅いだことがある臭いな気がするけれど……。



刺激臭の元をたどるように歩き出すと、その先にあったのは2人の寝室だった。



キッチン横のドアを開けて中を確認する。



寝室のベッドの上に何かが転がっているのが見えた。



それは見慣れた指輪をはめていて、叔母の左手であることがわかった。



「え……?」



唖然としていると、どこからかペチャペチャと、なにかを舐めるような音が聞こえて来た。



音に導かれるようにして寝室の奥へと移動する。



ベッドの奥へと視線を向けた瞬間、目玉が転がっているのが見えた。



悲鳴が喉の奥に張り付き、その場に尻もちをついた。



ペチャペチャという音はその奥から聞こえてきている。



そこにあったのは叔父の頭部で、なにかに寄ってガリッとかみ砕かれるのを見た。



「……もしかして、お前?」



名前のない子を呼ぶ。



するとさっきまでの粗食音がピタリと止まった。



それはあたしの質問に肯定してくれているように感じられた。



「姿が見えないけど……お前なんだよね?」



立ち上がり、叔父の遺体へと近づいていく。



ガリガリとかみ砕かれては消えて行く叔父の頭。



ソレが食事をしているのだ。



「そっか。大きくなったね。大人になったらお母さんにも見えなくなっちゃうのかな?」



そんなこと、サイトにはかかれていなかったけれど。



この子がわざと姿を消すなんて意地悪をするとは思えなかった。



きっと、書かれていなかった事情があるのだろう。



少しの間止まっていた粗食音が再び聞こえて来た。



あたしは邪魔をしないよう、そっと窓を開ける。



全部食べきってくれれば少しは臭いも軽減するだろう。



それよりなにより、思いっきり空を見上げたい気分だった。



ソレが大人になり、あたしの願いを叶えてくれたのだ。



あたしを縛っていた人たちはもういない。



その解放感を胸いっぱいに感じたかった。



「あたしは自由だ!」



あたしは窓の外へ向けて、そう叫んだのだった。

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