第27話

放課後になってもあたしはすぐには帰らなかった。



帰る時間が遅くなるとまた罵倒される。



それは分かっていたけれど、今日はそれ所じゃなかった。



ソレの夕飯のことを考えていたのだ。



家に戻ると余計に血液は手に入りにくくなる。



そのため、学校内のトイレをくまなく確認し、ナイロン袋にナプキンを集めていたのだ。



と言っても、掃除を終えた後なので汚物は少ない。



「どうしよう、これじゃ足りないかも……」



そう言っても、血を集めるなんてやっぱり簡単なことじゃなかった。



誰かが怪我でもしない限り、手にいれることはできないだろう。



渋々、あるだけのナプキンをナイロン袋に入れて持ち帰っていた。



課題をしていても、家事をしていても、ソレのご飯のことが気がかりだった。



「今日は私が作ってやるよ」



キッチンへ立った時にそう言われて、驚いて振り向いた。



そこにはエプロンを付けた叔母が立っていたのだ。



あたしは戸惑い、棒立ちになる。



「邪魔だよ、どけな」



そう言って体を押されて、ようやく横によけることができた。



昨日の事を気にしているのかもしれない。



鏡を見ていないからわからないけれど、あたしの顔色もまだ悪いままだろう。



この人にも多少の優しさがあったのだと驚いた。



このまま部屋に戻ってもいいのかどうか迷い、とりあえず食器の準備をすることにした。



なにもせずにいてまた怒鳴られてもたまらない。



手際よく準備をしていると、「痛っ」という声が聞こえてきて、叔母が手を止めた。



「ど、どうしたんですか?」



駆け寄って見て見ると、指先から血が出ている。



普段料理なんてしないからだ。



心の中でそう思いつつ、慌ててタオルを手渡した。



随分と深く切ってしまったようで、白いタオルはどんどん赤く染まって行く。



「なにしてんだ! お前が料理しないからだ!」



リビングのソファでふんぞり返っていた叔父が、騒ぎを聞きつけて怒鳴って来た。



「ご、ごめんなさい」



そう言い、料理の続きをし始める。



料理をしながら、あたしは横目で叔母を見ていた。



赤く染まるタオル。



あれがあれば、あの子のご飯にできる。



洗濯機に入れられる前にどうにか回収できないだろうか……。



そう思いながら炒め物をしていると、叔父がもう1枚タオルを持って来た。



まだ出血が治まらないようで、叔母は青い顔をしている。



「あの、病院へ行ってきてください。料理はしておきますから」



そう声をかけると、叔母は小刻みに頷いた。



ニンジンを切っていただけでそれほど深く指を切るなんて、どれだけドン臭いんだろう。



そう思い、内心苦笑いを浮かべる。



2人が慌ただしく家を出た後、あたしは料理を完成させた。



ソファに投げ出されたタオルを手に取り、鼻歌まじりに自室へと向かう。

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