第118話 巨人vs巨人
ドシン! 地響きが鳴って大地が揺れる。
重量級の中でもここまでの対決はそうそう見られるものではない。なんたって巨人同士の戦いなんだから。
「頼むよ精霊さん。こういう時は信頼に応えて無限パワーを出してくれるもんだよ」
神頼み精霊頼み。拝んでなんとかなるなら、わたしはいくらだって拝んでみせる。
わたしの意思で巨大ゴーレムが動く。まるで巨大ロボットだ。ビームでも出せたら言うことなかったね。
「まさかここまでとは……。その力……危険です!」
むしろビームを出せるのは相手の方だ。
クエミーが操る光の巨人。これも勇者の力の一部なんだろうけど、仕組みはまったくわからない。
微精霊は関係ないみたいだしね。それどころかクエミーが勇者の力を引き出すほど、微精霊が騒がしくなる。
どうやら相性はあまりよくないらしい。水と油、みたいなイメージで合ってるのかな?
「って、いきなり!?」
光の巨人が持つ剣が発光する。さっき山を吹き飛ばした破壊の光か!?
これ以上周りに被害を出すわけにはいかない。勇者には自然保護の考えはないのだろうか。
わたしは咄嗟に動いた。
「なっ!?」
驚くクエミー。驚いただけで、あまりダメージはなさそうだ。
わたしの巨大ゴーレムが両手を前に出して光の巨人を突き飛ばしたのだ。超重量級なだけあって倒すことに成功する。
光の巨人が倒れてから、光線が空に向かって一直線に伸びた。本当にビームみたいで、あんなのが当たったら吹き飛ばされた山と同じ運命を辿ってしまう。
「この……っ」
クエミーはじたばたともがいていた。光の巨人は身じろぎをするものの、上手く立ち上がれていなかった。
「……」
あれ、もしかして今がチャンスなのでは?
ゴーレムの指先を飛ばして弾丸にする。微精霊の力がびっしり詰まった特製の弾丸だ。
弾丸は倒れたままの光の巨人に当たった。ありったけの微精霊の力が加わったためか、その威力は相当なもののようで、衝撃で地響きが鳴るほどだった。
飛ばした指先はすぐに自己再生する。すぐにまた弾丸として放った。
ズドンッ! ズドンッ! と、命中する度に大きな土煙を上げる。光の巨人でなければ見失ってしまいそうなほど視界が悪くなる。
反撃はない。それどころか起き上がれてすらいない。こんな弱点があるとは思ってもみなかった。
「なんか引っくり返った亀みたい……。てかこのまま攻撃し続けていいのかな?」
ほんのちょっぴり良心が痛む。
でもやめない。下手に近づいて手痛い反撃にあったら嫌だし。そうでなくても何か変わったアクションがない限りは遠距離攻撃が正解のはずだ。
なんだかはめ技をしている気分だけれど、これも戦いなのだから仕方がない。
「……」
心なしか、ウィリアムくん達の視線が冷たいものへと変わっている気がする。え、これってわたしが悪いの?
ええい! 反撃があるならさっさとしろ! 怒りを込めて岩の弾丸を放った。
ズドォンッ!! ひと際大きな音だった。
その瞬間、土煙の中でもはっきりわかるほど光の巨人の全身が発光する。第二形態にでもなるのかと警戒した。
「って、クエミー?」
土煙と光が収まったかと思えば、すっかり光の巨人の姿は消えていた。
代わりに本体のクエミーが地面に横たわっていた。目をつむっており、意識がないように見える。
「勝った……のか?」
警戒してしばらく様子を見てみるが、クエミーの意識が戻ることはなかった。
「──バインド」
距離を保ったままクエミーを拘束する。やっぱり意識がないようで、簡単に成功した。
それから巨大ゴーレムを消滅させた。まともに戦闘を行ったわけでもないのに、でかさのせいかすごく疲れた。
「エル!」
フラつくわたしを、ウィリアムくんが肩を持って支えてくれた。
「あっと……ウィリアムくん、ありがとうね。おかげで助かったみたい」
「ううん。僕よりもやっぱりエルがすごいよ。あの光の巨人になったクエミーを倒しちゃうんだから!」
「ははっ……」
ウィリアムくんは褒めてくれるけれど、素直には喜べなかった。
クエミーはあの光の巨人を扱いきれてはいないようだった。最後はただの自滅だ。助けられたという思いが大きい。
彼女が冷静に戦っていたらこうはならなかっただろう。扱いきれない力に頼らなくたって、クエミーは強い。わたしよりもずっと。
「最弱の勇者、か」
きっと、歴代の勇者の中で力が劣っていたわけじゃない。
一度やられたことがある身としてはクエミーが弱かったとは考えたくない。それに、たぶん弱さの原因は心の脆さなのだろう。
……それを、わたしが言うとブーメランになっちゃうんだけどね。
「で、黒いの。これで終わったってことでいいのか?」
「ああ、うん、たぶんね……。サイラス、助けに来てくれてありがとう」
武器を収めるサイラスに頭を下げる。
彼らが来てくれなかったら危なかった。被害を抑えられたのは『漆黒の翼』の功績といっていいだろう。
「あの暴れてた勇者様はどうするんだ?」
サイラスがくいっと顎でクエミーを示す。魔法の縄でぐるぐる巻きにされたクエミー。このまま放置するわけにはいかないだろう。
「もしも無力化できたら、聖女様に引き渡す約束なんだ」
聖女様にとって普通に厄介事ではあるんだけど、クエミーも他国の山を吹き飛ばしたんだし、お咎めが何もないってわけにもいかないだろう。
クエミーを撃退する。そうすれば、わたしの手助けをしてくれるってのが、ルーク様が出した条件だ。
撃退っていうか、捕まえちゃったけど……これでもいいんだよね?
足元が定まってきたし、意識のないクエミーに近づいてみる。
「っ!?」
すると、突然水流が蛇のように発生した。それはクエミーを守るように包囲した。わたしじゃない。誰の魔法だ?
「そこまでだ。クエミー・ツァイベンの身柄はこちらで預からせてもらう」
わたしとクエミーの間に入ったのは真っ赤な髪に目つきの悪さが特徴的な男。以前と変わらない特徴を持つホリンくんだった。
いや、ホリン王子と呼ぶべきか? 友達感覚ではいられないのは確かだった。
久しぶりに再会したけれど、嬉しさよりも戸惑いの方が強かった。なんでホリンくんがこんなところにいるんだ?
「コーデリア、クエミーを運べ」
「お任せくださいませホリン様」
金髪の巻髪。さっきの水の魔法はコーデリアさんだったのか。確かに見覚えがある水魔法だった。
ホリンくんはウィリアムくんに目を向ける。けれど何かを言うわけでもなく、次にサイラス達を見て、最後にわたしと目を合わせた。
「よう。久しぶりだな、エル」
「お、おう……久しぶりだねホリンくん」
前に学校にいた時と同じような口調で話しかけてくるものだから、わたしも反射的に以前のノリで返してしまった。
コーデリアさんに睨まれる。あっ、これ失敗した空気だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます