第117話 わたしの最大級の力
「またでか物が相手かよ。黒いのは厄介な奴ばかりに好かれているんだな」
「もうちょっと小柄で乱暴じゃない人に好かれたいものだけどね」
サイラスがふっと笑う。笑える状況じゃないと思うけどね。
最強の冒険者パーティーが加勢に来た。クエミーが巨体な上に発光しているもんだから目立つよなぁ。ちょうど近くにいたので気になって様子を見に来たらしい。
「それじゃあ、早速やるか」
リーダーであるサイラスの号令に『漆黒の翼』が動き出す。
「ヒョオオオオオオオオオオオオオ!!」
ブリギッドが目にも留まらぬ速度で光の巨人に肉薄した。サイラスもそれに続く。
「ダメだ! その巨人には剣も魔法も効かなかったんだ!」
物理攻撃も魔法攻撃も効かない。そう叫んでも二人は構わず突っ込んだ。
「心配しないでいいわ。そのために私がいるんだもの」
次にテュルティさんが前に出た。
彼女は詠唱を始める。だから魔法も効かないって言ってるのに。
けれど、彼女の魔法は攻撃ではなかった。
詠唱に合わせて魔法陣ができていく。その魔法陣から淡い光が放たれ、サイラスとブリギッドを包み込んだ。
「強化魔法?」
二人の動きにキレが増した。ウィリアムくんをも超える俊敏さで光の巨人を翻弄する。
「ウィリアム! 俺に合わせろ!」
「サイラスさん!? は、はいっ」
急造ながらもウィリアムくんは『漆黒の翼』と連携をとる。実力者同士だからか、そのコンビネーションは様になっているように見えた。
ていうか、いくらウィリアムくんが強くなったっていっても最強の冒険者と見劣りしないだなんて……。しかもサイラス達は強化魔法ありにもかかわらずだ。本当によくついていけているものだ。
「サイラス!? あのドラゴン殺しの英雄……な、なぜあなた達までっ!」
「悪いが俺達にも愛国心ってもんがあるんだよ。そんな周囲を破壊するような力を使っておきながら、邪魔をするな、なんて言うんじゃねえぞ」
「くっ……」
明らかにクエミーは押されていた。
ただの強化魔法じゃなかったのだろうか。テュルティさんはどんな魔法を使ったのか?
サイラス達の攻撃はただの物理攻撃ではないようだ。僅かながらも光の巨人が怯んでいる。しっかりダメージが通っているのだ。
偽物だったとはいえ、魔王クラスの相手にも戦っていた連中だ。サイラス達の実力は勇者相手でも見劣りしていない。
それでも、大ダメージを与えるまでには至らない。光の巨人の耐久力がすごすぎるのだ。
こうなれば消耗戦だ。サイラス達の体力が尽きるか、クエミーの光の巨人が維持できなくなるか。どちらにせよ今すぐ決着がつく様子ではない。
なら、わたしの出番はある。
「テュルティさん、少し下がっていてください」
「黒い子ちゃん?」
加勢にきてくれたおかげで時間稼ぎは充分だ。
わたしの周囲には数えるのが不可能と思えるほどの微精霊がひしめき合っていた。こんなに集められたのは初めてだ。
これなら、大きな力となってくれるはずだ。きっとアウスに負けないくらいの力が出せるはず。
「いくよ、アウス……」
返事はないとわかってはいるけれど、呼びかけずにはいられなかった。
微精霊がわたしに力を貸してくれる。数の多さは質量の大きさとなって、形となる。
「これって!?」
テュルティさんが驚く。他のメンバーも似たような反応だった。
視線が高くなっていく。みんなを見下ろす位置に、わたしの目があった。
「なっ……!? なんですかそのゴーレムは!」
おっ、クエミーにも驚いてもらえたようで何より。それだけでもがんばった甲斐があったかもしれないね。
「目には目を。歯には歯を。巨人には巨人をってね」
わたしが微精霊と協力して生み出したのはゴーレムだった。
もちろんただのゴーレムではない。その大きさは三十メートルは超えているだろう。クエミーの光の巨人ですら見下ろしているほどでかい。
そして、わたしはといえばその巨大ゴーレムの中にいた。
「精霊術式ゴーレム……。それ自体はクエミーも見たことがあるはずだよ」
クエミー相手にお披露目したのは二年前。まだアウスがいた頃の話だ。アウスといっしょに作り上げたゴーレムだった。
あの時はもっと小さかった。アウスが弱いわけじゃない。わたしが未熟すぎただけだ。
だから簡単にやられてしまった。アウスを失ってしまったのは、わたしの責任だ。
「……今度こそ、変わったわたしを証明してやる。あの時の、リベンジだ!」
わたし自身が目を見張るほどの成長を遂げたわけじゃない。
ただ、こんなわたしを信頼してくれている人がいる。わたしはいろんな人から信じる力ってものを与えられ続けていたんだ。
今、その力ってやつを受け入れてみようと思う。
「勝負だクエミー! 後悔とか未練とか、そういう面倒なもの全部ひっくるめて乗り越えさせてもらう」
「ここで終わらせてもらいます。私は勇者として使命を果たすだけですから」
ここに巨人同士の戦いが始まった。
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