第3話 きっかけ

 

 ある日、私の元に夫が亡くなったと電話がかかってきました。


 私は頭が真っ白になり、

 そして、次に言われた言葉で絶望しました。

 

 夫の遺体は火葬出来ないと。

 引き渡しも出来ないので、葬儀は本人不在で行わないとならない事。

 死因は研究中に起きた事故らしく、詳細は明かせないとの事でした。


 納得いく訳ありません、でも私個人が訴えた所で相手にしてもらえませんでした。


 泣く泣く夫の遺品を整理している時に、私宛の手紙を見つけました。

 

 そこには今までの感謝と私への愛が綴ってありました。

 そして、こうとも書いてありました。

 俺が死んだら同僚の濱田に連絡して欲しいと。


 私は手紙に書いてあった番号に電話してみました。


 濱田さんという方に研究室でお話があると言われたので、伺う事にしました。


 研究室に行くのも初めてでしたし、夫の本物の知り合いに会うのも初めてだったので、少し緊張はしましたが、それよりも何故夫が死んでしまったのか、私は藁にも縋る思いで向かいました。


 会ってみると、濱田さんはとても物腰の柔らかい方で、私が切羽詰まっているように見えたのか、すぐに話をしてくれました。


 夫が死んだ原因は持病の悪化だったらしいです。

 何故私に言わなかったのか、会社も病院も何故説明してくれなかったのかは、この後話す事と関係があると教えてくれました。


 私の夫、潮田くんは、死んだら自分の細胞で子供を作って欲しいと濱田さんに頼んでいたようです。

 

 夫は種を保存していて、私に不妊治療をして欲しいという意味にしか捉えられませんでした。


 しかし、どうやらそうではないようで、濱田さんは私にレシピのような物を見せてくれました。


 そこには夫の部位と性能が細かく書かれていて、組み合わせ次第で出来るものが異なり、それは何通りもありました。


 夫の持病は治る見込みがゼロだったようで、どうにかして細胞だけでも残したいと、仕事の合間に研究をしていたそうです。


 そしてやっとレシピが完成した。


 だから、遺体を引き渡すわけにはいかなかったそうです。

 濱田さん含む他の研究員達も、夫の試みは興味深いと協力してくれたらしいです。


 話を聞いても、私には理解が出来ませんでした。


 その時私は気付きました。

 持病で死んだのなら遺体があるはずだと。

 もちろん会わせてもらいました。


 まるで眠っているかのようでした。

 

 夫の顔を見て私は決めました。

 やるしかないと。


 

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