ほこりの家系

虫十無

1

 私にはずっとこの世のものではないものが見えた。お母さんは「私の第六感を受け継いだのね」とずっと私をほめてくれた。その言葉は一緒に兄をけなす言葉だった。それは当たり前にそこにあった。


 お母さんの家系には第六感を持つ人が多いらしい。でも正確には、第六感というよりも超能力とか特殊能力的なものが大体らしい。でも特殊能力の中に第六感も入っちゃうんじゃないだろうか。そのあたりは全部又聞きだからよくわからない。でもそれを第六感って呼んでるらしい。

 私に見えるものは幽霊らしい。お母さんには妖怪とかよくわからないものとか、そういうものが見えてるらしい。だから私が見えるものはお母さんにはほとんど見えなかったり、その逆もあったりする。たまに両方の属性を持つやつもいて、それが誰だか思い出せないけれどお母さんの記憶の中にある顔だから、私に見えるのは幽霊だろうってことになった。

 お母さんはこの第六感を誇りに思っていて、おばあちゃんも、おばあちゃんのお兄ちゃんも、お母さんの家系の第六感を持つ人達はみんなそれを誇りに思っている。その人たちは女の人が多くて、だから男はだめだってよく聞く。


「いい子ね」

 お母さんは私のことをほめてくれる。

 それはおばあちゃんがお母さんにするのとそっくりらしい。兄が言っていた。おばあちゃんに会う機会なんてそんなにないから私はそんなに知らない。

 兄は第六感を持っていないのに私よりいろんなことをよく知っている。お父さんやお母さんが兄に何かを教えてるとこなんて見たことないのに、お父さんやお母さん以外の誰から聞いたんだろうと思うようなことまで知っている。

 兄は卑怯なんだ。第六感を持たないからって情報で勝とうとする。私がそんなことで負けるわけないのに。情報なんかよりよっぽど価値のあるものを私は持っているんだから。


  ***   


 僕の中にはおじいちゃんがいる。僕は僕の中のおじいちゃんとよく話している。おじいちゃんはいろんなことを知っている。僕が疲れて眠っているときに少しだけ僕の身体を使っているらしいけど、別に僕が困るようなこと、おじいちゃんはしないからいいかなと思う。むしろいつでも好きな時に寝られるからおじいちゃんに全部任せてもいいくらいなのに、それじゃだめだっておじいちゃんは言う。お前はお前の人生を歩みなさいって言う。

 おじいちゃんはお母さんのせいで死んだんだって言ってる。お母さんは変なものが色々見える。それなのにあれが見えないなんて。お母さんの周りには僕に入ったおじいちゃんみたいに、二つ持った人がいっぱいいる。みんなお母さんを恨んでいる人だっておじいちゃんは言ってた。生まれ変わりみたいな。けれど表に出てこない方は大体不満そうな顔をしている。

 妹とはそんなに年が離れていない。けれど僕のことを第六感を持たないから下だと思っている。お母さんもそう言ってるからそうなんだろう。おじいちゃんは否定してくれるけど、僕にとっておじいちゃんと話す以外のことはどうでもいいから妹のことはどうでもいい。

 お母さんの妹への態度はおばあちゃんのお母さんへの態度とそっくりだって、おじいちゃんは言う。それは間違ってるとおじいちゃんは思ってるらしい。


 自分の第六感を誇りに思ってるおばあちゃんは同じように第六感を持って生まれてきたお母さんのことをかわいがったらしい。誇らしい子、いい子、と常々言っていたらしい。そうしてお母さんは自分が一番だと思った。親孝行ないい子だと。

 お母さんの妹や弟たちはみんな第六感を持っていなかったから、おばあちゃんは余計にお母さんを溺愛したんだって。

 そうしてお母さんはやるべきでないことにまで手を出した。見えるものとコミュニケーションを取った。あれはこの世のものではないから関わっちゃいけないのに。

 それからたくさんの人が死んだ。その中におじいちゃんも含まれていた。

 妹に見えるのはそういうお母さんに殺された人たちの幽霊らしい。じゃあなんで僕の中のおじいちゃんやそのほか二つ持った人たちの二つ目の方はどうして見えないのと聞いたら、それは幽霊とは違うものだかららしい。幽霊はそれ一つで存在しているわるいもので、それ一つになっていない人の中にいる人はたとえわるいものでもわからないのだろうって。


「ここで断ち切らなきゃなあ。ずいぶん遅くなってしまった」

 僕の声で、僕の言葉ではないものを聞く。おじいちゃんなのだろう。僕はおじいちゃんに話しかける。どうして、と。今までこんなことはなかった。おじいちゃんが僕の身体を使うのは僕が寝ている時だけだった。こんな風に僕が起きてるときに僕の身体を使うことなんてなかったのに。

「お前だって孫だ。かわいいと思う気持ちはある。それでも、お前があの子と同じように育ってしまうことはそれ以上に哀れだと思う」

 手にはいつの間にか包丁を持っている。

「本来誰もが持っているものだから、第六感と言われているとあの家にあった本に書かれていた。そんなもの、誇りになんかならない」

 おじいちゃんは語りながら腕を動かす。誰に話しかけているのだろう。妹はもう聞こえないだろうに。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ほこりの家系 虫十無 @musitomu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

同じコレクションの次の小説

幽霊さん

★2 現代ドラマ 完結済 1話