先の見えない旅路

織宮 景

先の見えない旅路

 旅というものには自由に生き、新たな知識や出会いが待っている。だが時には牙を剥き、過酷な試練を我らに与える。この青年が旅に憧れた理由は両者だ。リスクがあってこそ旅を欲する。そんな旅を求める青年は今日も先の見えない旅を楽しんでいた。

 

「今日はどこを目指そうかな?いや、別に目指さなくてもいいか」


 日差しが降り注ぐ、壮大な高原を青年は悠々とした風にあたりながら歩く。重そうなリュックを背負っているにも関わらず、軽々足を進める。少し歩いた先で足を止める青年。

 目の前に村らしき建造物を発見する。新たな出会いの香りを感じ取り、それらの建造物へ向かう。


「旅人さんかい?」


 建造物の門まで行くと、村人が声をかけてきた。


「はい。ここで一晩泊まらせてもらっていいですか?」

「良いけど、多分ボロい部屋になるが」

「いいえ。外で寝るので部屋は入りません」


 外で寝ると言った青年に村人は少し戸惑いの表情を見せたが、許可をもらった。


「あの、自分は旅の傍で商売もしていまして、泊まらせてもらうお礼としてある食べ物を売りたいのですが………」

「食べ物?うちは食べ物に困ってないからいらないよ」

「いえ、腹を満たす食べ物ではありません。食べたことがない美味しく、刺激的な魅力を持つ食べ物です」


 そう言った青年はバッグから袋を取り出す。その袋から出した翠玉色の木の実を村人に見せる。


「なんだぁ?綺麗な色をしているが、本当に美味しいのか?」

「味は保証します。なんってたってあなたは泊めさせていただく恩人なのですから」


 疑いの眼差しを向ける村人は木の実を手に取って食べた。

 その途端、舌が歓喜し、身震いを起こすほどの甘酸っぱさに腰が抜けた。


「なんじゃこりゃぁぁ!もっとくれ!ありったけくれ!」

「これ以上は対価を支払ってもらわないといけません」

「金かっ!?金ならやる!だからもっと食べさせてくれ!」

「お金はいりません。その代わり、この村の名産品と交換であれば良いですよ」

「おう!分かった。みんなを呼んで沢山あげるから待っててくれ」


 村人は他の村人達を呼んで、村にある食べ物や服、装飾品といった物を集めた。それを対価にし、青年は木の実を村人達に渡した。


「この後、この村を案内してもらって構いませんか?」

「良いぜ!木の実を売ってもらった恩もあるからな」


 案内をしてくれる村人について行く青年。村人は広い畑、水車小屋、馬小屋などを見せてくれた。一通り見て回った青年は一つ疑問が浮かぶ。


「あの小屋はなんですか?」


 ボロボロの小屋にご飯を持って入って行くのを見かける。何かを飼っているのか?と不思議に思う青年。


「旅人様に見せれるようなものはございません。さぁ、あちらへどうぞ」


 さっきまで明るかった村人の顔が曇る。これは「何か」があると思った。







 深夜になり、周りの気配を気にしつつ例の小屋へ近づく。周りには誰もいないことを確認して扉の隙間を覗いた。小屋の中は薄暗く、よく見えない。覗いていると中から金属音が聞こえた。しばらくして部屋の窓から差す月の光が強まり、室内が照らされる。埃が舞い、不潔な部屋の中心に人の姿が見える。見えてきた人の姿は鉄の牢屋に閉じ込められた小柄な少女の姿だった。

 近くで足音がし、咄嗟に小屋の中に隠れた。


「あなた誰?」


 少女が青年に問う。その少女の体は傷だらけだった。


「しがない旅人です。あなたは何故ここで監禁されているのですか?」

「よく話しかけれるわね。こんな汚い女に」


 少女は自分の体についた傷を寂しげな目で見つめる。その声は幼き子の声ではなく、何もかもに絶望したような掠れた声であった。


「今から外しますから………」

「ダメよっ!」


 外そうと近寄ると、さっきまでのしがれた声からは想像できない大きな声をあげる。


「あなたが私を連れ出せば、村人はあなたを殺すまで追いかけるわよ」

「なんで彼らがそんなことをするんだ?」

「なんでって?それは私が予知能力を持ってるからよ」


 青年が「何故牢屋に閉じ込められているんだ?」と聞くと、監禁されるまでの経緯を話してくれた。

 村に生まれた少女は幼い頃から妙なことを吐く子であった。内容は誰かが亡くなる、畑に嵐が来るなどの不謹慎なことだった。最初はただの戯言だと村人は思っていたが、その内容は全て現実に起こった。しかし、目の当たりにした村人は少女が予知能力ではなく、彼女が言ったことが本当になると勘違いした。そして村人の総意により少女は汚い小屋に監禁された。それから少女は悪魔と呼ばれるようになった。


「だからそんな悪魔を野に放ったら、あなたを村人が殺しに来るわよ。それでも良いの?」

「君は予知能力で人を助けようとしただけだろ。そんな君を悪魔と言い、こんな目に合わせた村人のほうが悪魔だ。それに俺はリスクには慣れてる」


 そう言い、青年は牢屋の鍵を鈍器で壊した。


「本当に良いの?」

「男に二言はない!それにそんな悲しい顔をしてる女の子を放って置けないよ」

「そう………。さっきからあなたの未来を見ようとしてるけど見れないわ。こんなこと初めてよ」

「俺は先の見えない旅をしてるからな。当たり前だ」


 青年は少女の手を引いて小屋を出た。そしてある場所に向かう途中、2人を目撃した見回りの村人が武器を持って後を追ってきた。追いつかれる前に2人は目的地に到着した。


「乗るぞ!」


 青年と少女は馬に乗り、馬小屋から飛び出た。村人は流石に馬に追いつくことが出来ず、無事村の外へ出ることができた。


「あなた、面白い人ね。これからどこに行くの?」

「まだ決めてない。俺の旅は先が見えないからな」

「ふふ。どうしてあなたの未来が予知できないか分かった気がするわ」


 こうして2人の先の見えない旅が始まった。

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