サマーオーダースイーツ
蒼衣ユイ
first season. 太陽と向日葵の夏セット
八月も半ばに入った真夏日、葵は大学の同級生と二人で先週開店したばかりのカフェに来ていた。大学から徒歩五分とほど近いため女子生徒でひしめき合っている。
店内は図書館をコンセプトにしたアンティーク風で、壁には背の高い本棚で埋め尽くされている。
メニューに特筆する物はないが、クッキーやケーキは本の形をしていて可愛いと人気だ。他にもしおりやブックカバー等、書籍に関する商品が並んでいる。
「累先輩クッキー好きかなあ。デザイン可愛すぎかな」
「あんた何も無い日にガンガン貢ぐの止めな。引く」
「う……」
棗累は葵の一学年上の男子生徒で、太陽のような眩しい笑顔が人気のイケメンだ。
その顔と共に名前は知れ渡り、おかげで棗の所属する園芸サークルは尋常じゃない女生徒が所属している。
そして葵もその一人だ。何とか気に留めてもらおうと必死なのだ。
「だって近付くチャンス無いんだよ」
「まあねー。弟のトコに秒で帰るらしいし」
棗累が有名な理由は顔と、もう一つは双子の弟の溺愛ぶりだ。
子供の頃から病気がちで入退院を繰り返しているらしく、一分一秒でも離れたくないと公言している。
それでも棗を引き留める女子生徒は多い。しかし以前、引き留めてる間に弟が体調を崩し、側にいられなかった事を激怒し女子を泣かせた事件があった。それ以来誰も棗に無理強いする事は無い。
「だから秒で終わり、かつ記憶に残る交流したいのよ」
「でもその他大勢よりはリードしてるでしょ。
「先輩以外にその呼び方してほしくない」
葵の名前は
二十年間ひまわりいじりをされ鬱陶しさしかなかったが、棗もこの名前を気に入り『
これは周囲の女子をざわつかせた。嫉妬され無意味に悪口を言われたりもするが、それも優越感を感じている。
「あ、ケーキきたよ
「だから止めてって――……うわあ!」
お待たせしました、とウェイトレスが運んできたのは片手で持てる大きさのメイソンジャーにケーキの材料を詰めた瓶詰めのケーキだ。
スポンジとクリームが断層になっていて、いちごの断面が見えるように内側から貼り付けられている。クリームの隙間にはジャムも入っていて、無造作に混ぜられているように見えるがそれがオシャレさを演出している。
「ショートケーキ可愛い~!」
「可愛いっつかデカい」
「でも持ち帰りできるし。あ! 誕生日瓶ケーキにしよ! ぱっと渡せて良い! この後瓶探しに行っていい⁉」
「あんたホントめげないね」
「フられたらめげるよ」
参考にしよ、と葵はジャーをぐるぐると回して写真を撮っていた。
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