俺の彼女は第六感が強いらしい。
荒音 ジャック
俺の彼女は第六感が強いらしい。
これは、俺とあの子のくだらない関係から始まった……
・暁斗は語る。
俺の名前は唐沢 暁斗、どこにでもいるような無難な人生を生きるつまらない男だ。高校生になっても、変わらない日常を過ごしていた高校3年の3学期、クラスの陽キャたちがふたつの小さな箱を用意して教卓の前に集まっていた。
陽キャ男子「おい暁斗! どうせだからお前も引けよ!」
クラスの陽キャ男子がそう言って俺の席まで来て、小さな箱の中に入っているクジを引かせた。
「今回は一体何のクジだ?」
俺の問いに、陽キャ男子は悪そうなことを考えている笑みを浮かべてこう言った。
「今回の企画は「ドキドキ! くじ引きカップル!」だ」
それを聞いた頃には俺はクジの紙を手に取っており、心の中で「はい油断したー完全にやらかしたー」と後悔しながらクジを開くとそこにはクラスの女子生徒の名前が書かれていた。
その名前を見て俺は思わず「え?」と驚きの声を漏らすと、陽キャ男子は俺が引いたクジに書かれていた名前を口に出す。
「おっ! あの自称・霊感少女の姫守 綾だって! コレぜってぇ本人が入れた奴じゃねえだろ」
陽キャ男子はそう言ってケラケラと笑ってから俺に「じゃあ、頑張って卒業まで付き合えよ! ダメだったら罰ゲームだからな」と肩を叩いてその場から去っていった。
姫守 綾……今年の2学期に転入してきたクラスメイトで、結構かわいい顔をした子なんだけど、あの陽キャが言っていた通り、綾はクラスの中でも浮いた存在で、他の生徒と話しているとこや、登下校も誰かと一緒にいるところを見たことがない。
ただのくだらない戯れとはいえ、アイツらから罰ゲームを受けるのが嫌だった俺は、その日の放課後……綾に声をかけた。
「綾さん、一緒に帰ろ?」
俺が声をかけたのは日本人では普通いないはずの銀髪赤眼のアルビノの可憐な少女、この子が姫守 綾だ。
普段からクラスメイトに話しかけられることがない綾は「え? え?」と困惑していたため、俺はクジ引きのことを説明した。
「今日、陽キャたちがクジ引きで卒業まで付き合うカップルを決めるってのをやってさ。その場に合わせてクジを引いたんだけど、引いたクジに綾さんの名前が書いてあったから……自分で入れたんじゃないんだね」
俺は綾にそう言うと、綾は「あっ……そうなんだ! 暁斗君に当たったんだね」と言ってきたため、予想外の反応に俺は「ん?」となって聞いてみることにした。
「ちょっと待って、綾さん自分でクジ入れたの?」
単刀直入な俺の質問に、綾は「うん、クラスの誰とも仲良くなれずに卒業はしたくなかったから……」と意外な理由を話した。
教室を出て、俺と綾はサブバックを肩にかけて廊下を歩いていた。綾は転入初日の時はクラスのアイドルのような存在だった。男子にチヤホヤされ、女子にはアルビノ特有の美しさを羨ましがられていた。
誰もいない廊下を歩いている最中、綾は突然立ち止まって何かに怯えるように震え始めた。
「暁斗君……別の階段使わない?」
綾は震える声で俺にそう言ってきた。綾の視線の先には誰もいないし、誰かがいるような気配も感じない。
・綾は語る。
誰もいない廊下で私の視線の先に、黒い靄を纏った学生服姿の生気を感じない虚ろな目をした男子生徒がいた。
見ているだけでも恐怖の余り、足が動かなくなって吐き気を催してくる存在がそこにいるのに、暁斗君は何も見えていない様子で「もしかして例の霊感?」と尋ねてきた。
暁斗君の言う通り、私は第六感が強い……そのせいで普通の人が見えないものが見えたりして気味悪がられてしまう。
しかし、暁斗君は怯える私の手を取って「何が見えてるから知らないけど『俺が見えないならそこには何もいない!』ほら行くよ」と言って、私を引っ張った。
他の人はそんな私を気味悪がるのに、暁斗君は私を引っ張りながら前進したため、その方向へ向かいたくなかった私は「待って! そっちは……」と警告しようとしたけど暁斗君は「大丈夫だって! 変に怖がるから怖いものに見えるんだよ」と言って私を引っ張りながら私にしか見えないソレの横を通り過ぎた。
・暁斗は語る。
綾が何に怯えたのか? 正直言って俺には解らない……適当なことを言って多少無理矢理だけど、何事もなかったかのように校舎を出た俺たちは帰り道を歩いていた。
特に仲がいいわけでもなかった俺たちは何も話をすることもなく冬の夕暮れの空の下を歩いていると、冬の冷たい風が俺たちを包んだ。
「あー、さみぃ……ラーメン食べたいな」
俺は夕暮れの寒さに身震いしながらふと頭に思ったことを口に出すと、それ聞いた綾が「近くにあったら寄っていかない?」と尋ねてきた。
俺は困った顔で「兄貴が行きつけにしていた店が他所に移転したからないんだよな」と答えると、綾は「そっか……」と静かに言って落ち込む。
・綾は語る。
実は下校途中の寄り道にずっと憧れていた……今まで、誰かと一緒に帰り道を歩くことがなかったこともあって、寄り道なんてしたことがなかった。
今回はダメだと諦めた私はしょんぼりと肩を落として歩いていると、暁斗君は何かを思い出したかのように「あっ!」と言ってこんなことを言いだした。
「そういえば、コンビニ寄っていきたいんだった。ついでに肉まん買ってこうぜ」
それを聞いてテンションが上がった私は「行こ! 行こ!」と暁斗君と一緒に最寄りのコンビニへ向かい始めた。
しかし、今度は歩道の進行方向に黒い靄を纏ったホームレスの格好をした老人のようなモノがいた。
・暁斗は語る。
急に綾は、右手で俺の左手を掴んできた。また何か見えたのだろう……そう思った俺は気にすることなく綾の手を引いてコンビニへ向かった。
コンビニで俺は、必要な物を買ってついでに肉まんを買って、綾と一緒に帰り道を歩きながら食べた。
日が暮れた頃、交差点で信号待ちをしながら俺は綾にこう言った。
「また今日みたいにさ……進む方向に怖いものが見えたら一緒に行ってあげるよ」
そう言いたくなったのは、ただ無難に罰ゲームを受けるのが嫌だったのと、綾が見えているモノが俺に対して害を与えていなかったからかもしれない。
でも、綾の気持ちを考えてみれば、自分にしか見えない存在が周りに気づかれずに自分を傷つけてくるのかもしれないと考えるとなんだか解った気がした。
・綾は語る。
私は、自分にしか見えない存在に怯えている私に、勇気をくれる暁斗君の言葉を聞いて、とてもうれしかった。
今まで私の周りには気味悪がる人はいても、手を差し伸べてくれる人はひとりもいなかった……くだらない戯れでしかないと思っていたけど、それでもあのクジに参加してよかったと今は思っている。
私は暁斗君に「うん、ありがとう」とお礼を言ったその時、信号機が青になって暁斗君は歩き出した。
・暁斗は語る。
信号が青になって俺は前に歩き出したその時、綾が急に「待って!」と叫んで俺の左腕に抱き着いた。
咄嗟の綾の行動に、俺は困惑していると、右の方向から突然信号を無視したトラックが自身の目の前を通り過ぎて、交差点の中で他の車数台を巻き込んで衝突事故を起こした。
もし、綾が俺を止めていなかったら……この時俺は綾の第六感に感謝していると、綾は「私の第六感……役に立つでしょ?」と俺の腕に抱き着いたまま小さく微笑みながら言ってきた。
・綾は語る。
それからというもの……私は学校にいる時や休日の時でも、暁斗君と一緒にいる時間が増えた。
でも、季節は過ぎていき……卒業式を迎えた頃、私は憂鬱な気持ちになった……なぜなら、この関係は卒業式までしか続かないからだ。
暁斗君はその場に合わせてクジを引いて偶然その相手が私だったというだけで、戯れが生み出した仮初の関係でしかない。
卒業式が終わって、それももう終わってしまう……学校の屋上で、私は暁斗君と最後のふたりきりの時間を過ごすことにした。
・暁斗は語る。
卒業式を迎えて、俺と綾の関係も終わりを迎えることになった……所詮は陽キャたちが提案したくだらない戯れだ。
そう思っていた……けど、本当にそれでいいのか? そんな疑問が心の中で渦巻いていた俺は答えを出すことにした。
「今日でカップルとしての関係も終わっちゃうね」
どこか残念そうな顔でそう言ってきた綾に俺は「まあ、元々は陽キャたちの戯れだしね」と返してから、勇気を振り絞ってこう言った。
「今からさ……新しい関係にならない?」
・綾は語る。
暁斗君にそう言われた私は「それって……本気で付き合うってこと?」と尋ねると、暁斗君は頬を真っ赤に染め、右手を私の方へ差し出して、頭を下げて大声で「綾のことが好きだ! 今日から俺と本気で付き合ってくれ!」と私に告白してきた。
突然の告白に私は「いいの? 私みたいな第六感が強くて不気味に思われる人でも……」と尋ねると、暁斗君は私の両肩を掴んでこう言った。
「第六感が強いとか他の人には見えないモノが見えるとか関係ない! 俺は純粋に綾のことが好きなんだ!」
そう言われた私の両目からボロボロと涙がこぼれ、暁斗君はそんな私に「返事……聞かせてくれるかな?」と言われたため、泣きながら答えた。
「バカぁ……そんなん言われたら断れないよ……」
こうして、私と暁斗君は本気で付き合うことになった。今まで第六感が強いせいで周りから避けられていた私のことを受け入れて、時に勇気をくれるかけがえのない人と一緒に居られる私は……とても幸せだ!
俺の彼女は第六感が強いらしい。 荒音 ジャック @jack13
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