みっちょんプロファイル

飛辺基之(とべ もとゆき)

第1話 リングネームはみっちょん

みっちょん、とは、我がAV制作会社のエース女子社員だ。その華やかさはAV女優を超えていて、ルックスは最高だ。ノリの良さといい、珠玉の女性なのだが、微妙に一般女性なのだ。


やはり、AV女優には属さない。


武川美智代さんという、そのみっちょんは、数々の武勇伝を持つ。

ある後輩がいた。その男性は、山〇〇会の会長の長女に恋してしまった。しかし、弱気な男性は告白なんてところではない。それでも恋心は誤魔化せない。


それを見ていたみっちょんは山〇〇会に乗り込み、会長山〇〇に直訴して娘さんと男性を付き合わせろと話をまとめてしまった。


これには山〇〇会長もびっくり。気に入った、と、杯を交わしてきたという。


みっちょんには、そういう武勇伝はたくさんある。


━━━━━


前野さんの三十数回目の誕生日祝いが行われた、貸切のパブも、そろそろ落ち着いた頃だ。


前野さんも、カウンターに肩肘ついて黙々とスマートフォンをチェックしていた。


華やかなパーティーが済んだ店内は、急に気が抜けたように静かだった。


「前野さん、重ねてお祝い申し上げます」


「ありがとう、みっちょん。遊佐君。こんな誕生日祝いは今まで無かったよ」


「美智代さんが幹事を勤めたら、これぐらいのパワーが出ます」


僕は言った。


「本当に嬉しい」


「だといいんですけど」


みっちょんが、少し疑うように言った。


「前野さん、なにか心配事があるんじゃないですか。時々スマートフォンをチラチラ見ていた」


みっちょんの妖怪アンテナが反応している様子だった。


「気づいたかい。心配事、確かにね。同級生の女性がいる。中学生の頃に親しくしていた。しかし、今都立病院に入院していてね」


「彼女ですか?」


僕は聞いてしまった。


「どうかな」


前野さんは余裕を持って笑った。


「彼女、だったかもしれない。あの当時はね」


「ええ!すごい!」


みっちょんがウケていた。


「芳しくないんですか?」


「心臓が悪いらしい。ちょっと厄介なようだ」


「心配ですね」


みっちょんも心配していた。


そこで、みっちょんのパートナーで仕事をしている袴田さんが口を挟んた。袴田さんは前野さんと同い年だ。


「照之。心配するのは仕方ないが、お前には薫さんと雄大君がいるんだからな」


前野さんは微笑した。


「分かってる」


その様子を見ているみっちょんは、まだ気になる様子だった。


「前野さん。みっちょんすごく気になります。なんか予感」


「大丈夫だから、武川君」


その前野さんは、どこか陰りがある笑顔だった。


そして、何事かは始まったんだった。


(つづく)

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