第六感魔王 オダノブ君

酒井カサ

第『歴』話 元祖炎上系 総見院泰巌安公


 ――実のところ、俺は未来視だけで生き残ってきたんだぜ。


 いや、別に乱心した訳でも厨二病を拗らせたでもねーよ。どこぞの独眼竜とか名乗っちゃう痛たたたな若造と一緒にすんなっての。


 いやまあ、俺とて第六天魔王を名乗ったことあるけど、あれはブラックジョークなんだって。ほら、武田のアホが「天台宗の代表はオレサマってわけ」なんて煽るもんだから、つい仏敵を名乗っちまったというか。売り言葉に買い言葉だっての。


 それともてめー、あれか。

 YouTuberの来歴をいちいちつつくタイプの人間か?

 おいおい、そんなに怒るなよ。膨らんだ頬がきんかんのようだ。

 えっ、「殿がおっしゃる『ゆうちうばあ』なるものが分からないだけにゃんですけどっ!」って。まあ、南蛮由来の狼煙みたいなもんだ。小さいこと、気にしても仕方ねーぜ。


 でまあ、本題に戻るけど、俺は未来が見えちゃうってわけ。

 いや、俺が神仏の加護を受けれるような人間じゃねーって言い分は分かるがよ。

 見えちまうもんはしょーがねーだろ。受信料取られないだけマシってもんよ。

 うちみたいな弱小国家が天下統一の寸前まで迫っているって尋常じゃないだろ。常識的に考えて。JK。

 桶狭間でムカつくエリートをぶちのめせたのも、比叡山をこんがり焼いてバズったのも、長篠でボンボンを馬刺しにしたのも、視えた通りにしただけだ。


 だけど、それも今日でおしまいっていうのも知ってる。

 いやいや、今更驚いたリアクションしても遅いから。可愛い部下の謀叛ぐらい、分からないわけねーっての。例え、両の目がつぶれていたとしても悟ってみせるさ。

 ありとあらゆる権威を手当たり次第に焼いてきた炎上系Youtuberが最後は己が身の炎上をもって引退とな。

 くく、企画ってもんをよくわかってるじゃねーか、明智。


 しっかし、報われねーんだよ、お前。いや、負け惜しみじゃなくて、未来が視えてるだけ。農民にばさーやられて、お前が嫌いなサルが調子に乗って滅んで、あのタヌキがうまいこと全部持っていく。といっても200年ばかしの天下だがな。


 その点、俺は違う。俺の奇天烈な半生と天下布武の間近でくたばったことにより、後世の創作家のおもちゃとなる。女体化したり、竜となったり、はたまたロボと化したり、神話的恐怖の一側面という定義をなされたり……。

 とにかく乾く暇がねーぐらい擦られる。さながらフリー素材のような扱いだ。だがな、なにも問題はない。むしろ望むところだ。

 『人間五十年、下天の内をくらぶれば、夢幻の如くなり』、これは俺が辞世の句にしようとしていたものだ。だがな、語り継がれる限り、俺という存在はこの世に残る。今、見える範囲では500年以上は語られるようだな。そうして語り継がれることで俺は神仏と等しいものとなる。


 おや、明智にはちょいと難しかったか。だが、じきに分かる。なんたってお前は俺を討伐したものとして、俺の伝説と共に語り継がれるのだからな。


 さあ、火を放て。

 そして、長き旅を始めるとしようぞ。

 我らが半生を様々な形で演じながら。


 おお、泣くな、泣くな。俺はすべてを許している。

 ……ただ、次の世界線ではちゃんと男に戻っておけよ、明智。

 お前が若いおなごだと、どうにもやりにくいからな。

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