新説巌流島~宮本武蔵はなぜ佐々木小次郎を殺さなかったのか~

デバスズメ

~宮本武蔵はなぜ佐々木小次郎を殺さなかったのか~

宮本武蔵はなぜ佐々木小次郎を殺さなかったのか。その答えは、誰もが知っている巌流島の決闘に隠された歴史だけが知っている。


「遅いぞ武蔵!」

「待たせたな小次郎!」

佐々木の待つ砂浜に宮本の小舟が到着する。あえての遅刻という作戦が功を奏したのか、すでに佐々木の心は落ち着きがない。


……いや、佐々木の心は別の意味で落ち着いていなかった。

(武蔵め、何か企んでやがるな……俺の第六感が頭ん中で踊り狂っていやがる……)

「ふふふ、どうした小次郎?そのような苦虫を噛み潰したような顔をしおって……待ちすぎて待ちくたびれたか?」

「いや、なぁに、ちいぃとばかり気にあることがあってね」


「気になること?」

「武蔵よ、アンタ、ご自慢の二刀流はどうしたい?丸腰じゃねえか?」

「っふ……しれたことよ。お主に儂の刀はもったいなかろう」

(いや、武蔵はもったいぶつようなやつじゃねえ。勝てるときは全力で勝ちに来る。だが帯刀していないのは間違いねえが……くそ、頭ん中で俺の第六感が暴れまわって考えが追いつかねえ!)


『ダイロッカーン!(※小次郎の脳内で暴れまわる第六感の鳴き声)』


「おいおい武蔵のダンナ、アンタともあろうお方が本気で決闘に挑まないはずがなかろうよ。さあ、とっとと獲物を出しな。懐刀か?単槍か?はたまた鉤縄手裏剣か……武器なら何でも使うって噂だぜ?」


「ふむ、そう褒められるのも悪い気はせぬが、もったいぶる必要もなかろうな。どうれ……」

(武蔵が船に戻った?ちくしょうめ!まだ獲物は船に積んであったってわけか…何を持ってきやがる!?うおお、頭ん中で俺の第六感がは走り回ってやがる!)


『ダイロッカーン!ダイロッカーン!(※小次郎の脳内で走り回る第六感の鳴き声)』


「儂の獲物は、これよ」

「な……木刀……だと……」

「ただの木刀ではない。これほど長い木刀、なかなか見たことはあるまいよ」

「ぐっ……、俺の物干し竿より長い……か……?」

「どうかな?切り結んで見れば嫌でもわかるぞ?」


(あれかァーッ!俺の第六感が騒いでた理由は!もしあれが物干し竿より長けりゃ、俺の燕返しが破られちまう……こんなときこそ働いてくれよ俺の第六感よぉ!)


『ダイロッカーン……(※小次郎の脳内で沈黙する第六感の鳴き声)』


「だいろっかーん!!!!!」

「うお!どうした小次郎!?」


「いや、なに……、気合の雄叫びだ。さっさとおっぱじめようぜ!」

「その意気や良し、では、まいる……」

「いくぞ……」


(俺の燕返しは振り下ろしで相手をひるませて返しの刃で切り上げる必殺の技。だが、もし相手が俺よりも長い武器を使っていたら、がら空きの俺の頭が真っ二つだ。ここは武蔵のヤローが持ってきた木刀が物干し竿より短えことに掛けて突っ込むしかねえ!……!俺の第六感が復活しやがった!)


『ダイロッカン!(※小次郎の脳内で危険を知らせる第六感の鳴き声)』


(あの木刀は、物干し竿より長い……そう言いたいんだな?俺の第六感よ)


『ダイロッカン!(※小次郎の脳内でそう言いたげな第六感の鳴き声)』


(……ふっ。それじゃあ、しかたねえな。第六感、お前を信じるしかねえなぁ)


『ダイロッカン……(※小次郎の脳内で少しさみしげしょんぼりする第六感の鳴き声)』


(安心しろ。命あっての物種だ。いくら木刀ったいったて、頭かち割られたら死んじまうからよ)

「どうした小次郎、怖気づいたか?」


「……いや、降参だ。お前の木刀、俺の物干し竿より長いだろ。真っ向勝負じゃあこっちが負けるのは見えちまったんだよ」

「……ふむ。確かに、儂の木刀は燕返しを破るために用意した特注品だが、よく切り結ぶ前に分かったな?」

「なに、俺の第六感が教えてくれたんだよ。『アンタの木刀は危ない』ってな」


「なるほど……。戦って勝つのは当然勝者だ。だが、危険を見抜いて生き延びることも、また勝者であろう。小次郎、恐るべき剣豪よ」

「いや、降参は降参。生き延びようがこの決闘は俺の負けだ。勝ったのは武蔵、オメーだよ。オメーこそ、恐るべき剣豪よ」


「っふっふっふ……」

「っくっくっく……」


「がーっはっはっは!」

「だーっはっはっは!」


「……」

「……」


「儂は先に帰らせてもらうぞ、小次郎。形はどうあれ敗者を先に返すわけにはいかんからのう」

「おうおう。とっとと帰りな。俺ァ後からゆっくり帰らせてもらうぜ」


「小次郎」

「なんだよ武蔵」


「第六感とやら、せいぜいこれからも大切にしてやるがよい」

「ふっ。言われなくても、まだまだ頼りにするさ。俺の大事な第六感はな」


『ダイロッカン……!(※小次郎の脳内で感激する第六感の鳴き声)』



……その後も小次郎は第六感と共に生きていくのだが、どのような人生を送ったのかは隠された歴史だけが知っている。



宮本武蔵はなぜ佐々木小次郎を殺さなかったのか。その答えは、第六感の働きで小次郎が死を回避したからである。


おわり


(諸説あります)

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