第六感なんて信じない方がいい

@uisan4869

第六感なんて信じないほうがいい

私は昔から人より勘が鋭い。そう感じ始めたのは最近になってからのことだった。

人生を思い返してみれば、勉強でもテスト前に先生がここの問題を出すだろうと皆がすっかり忘れていた範囲を勉強してそれが的中したことやどの天気予報でも全国的に晴れだと言われても何故か雨が降る予感がして折りたたみを持っていくと夕方には少し先が見えなくなるほどの豪雨が降り始めていたりと些細なことばかりだったが、最近になって勘が鋭いと思う要因になった出来事が、たまたま財布にお金が入っていないことに気づき、たまたま立ち寄った銀行。ATMが混雑していて窓口でお金を下ろすことにした私がふと、待合のベンチに座った二人組の男性の前を通った瞬間、何故か頭の中にあの二人は危険だと直感で感じた。何か危険だと思う証拠があったわけではないが、何故かその直感は私の中では確信があった。私は信じてもらえるわけもないと思いながらも年のために窓口の女性にお金を受け取った後、「ベンチに座るあの二人組の男性には気をつけてください」と自分の直感を信じて忠告した。案の定窓口の女性はまるで信じていない、むしろ私を変なお客が来たというような目で見てくるので、私はすぐさま銀行を後にした。するとその五分ほどあと、ニュースの生中継でさっきまでいた銀行に二人組の強盗が銀行を占拠しているというニュースが流れていた。やっぱり自分の直感は的中したと喜ぶもついさっきまで自分がいた場所が強盗にあっているという現実の怖さがせめぎ合ってお腹が痛くなる。一応忠告はしたものの信じていない様子だったし、おそらく変な客の変な言葉だと思って流していたはずだ。その場にいないから私にとっては最早他人事だが、親切心でいっても結局は他人の言葉は自分の言葉よりも信じてもらえないようで、信じてもらえないならとこうした事件などに巻き込まれそうな時は変に忠告しないように決めた。

しかし、いつの間にか備わった私の直感。これがなんなのか、単に運がいいのを直感と思い込んでいるのか、はたまた本当に勘が鋭いのか。気になった私はネットでこれらに関して調べてみた。

すると直感とは人間の第六感に値する特殊能力なようで、常日頃普通の人々でもたまたま勘が当たるや予感がするなど当たり外れはあるもののよくあることで、それもある種、第六感と呼べるものだとあるが、私のように直感が全て当たるのはまさに理屈では説明がつかないような第六感と言えると書かれていた。今までこの直感のせいで周りから変なやつとあの銀行の窓口の女性から向けられたのと同じ目で後ろ指を刺されてきた。だけど、これが私に備わった普通の人にはない特別な力だと思うとこれまでの事がチャラになってしまうほどワクワクが止まらなくなった。

私はこの力があれば何でもできる。なんだが、身体まで軽くなった気分だった。

「今までの私の人生はチュートリアルだったんだ!これからがほんとの私の人生なのよ!」

これまでの後ろ指刺されていた自分とは別れを告げ、私は変わった。

全ての決断を自らの直感に任せ、自分が思う正しい道を進むことに決め、手始めに直感に任せて私は今までやっていた仕事を早速退職した。繁忙期に入る前に上司に退職届を出し、退職金までしっかりともらい暫くは安定して暮らせるほどの資金は手に入れた。だが、気晴らしに趣味であるリサイクルショップ巡りをしていると古いキャンピングカーに目を奪われた。車体サイズも一人で乗る分にはちょうどいいサイズで古いとは言え、最近のキャンプブームもあってか値段はそこそこ、退職金全額を使えば変える値段ではあるが仕事を既にやめてしまった私からすれば退職金がなくなるのは今後の生活の困難を強いることになる。私は迷ってしまった。だが、私の直感はそんなときでも私に正しい答えを導き出してくれる。

「すみません、この車、買います」私は退職金全額を使い、中古のキャンピングカーを購入した。残りの生活費はコツコツ溜めた貯金を切り崩しなんとかするしかない。消して贅沢が出来るお金はないものの、キャンピングカーを購入した喜びの方が胸の中いっぱいを満たし、普通の人から見れば判断を見誤ったと思うだろう。しかし、私は常に正しく直感で生きている。私が間違えるなんてことは決してありえないのだ。

私は銀行口座に残った貯金全額を持って、洗車して綺麗になったキャンピングカーに乗って各地を旅することにした。出発は関東から始まり、順調に行ければ一ヶ月程度で九州まで行けるはずだ。それまでは残りの貯金で節約しながら生活していくしかない。一見きつそうな生活に見えるだろうが、それでも自分が楽しければそれでいい。自分が満足いく生活していければそれでいい。


私は貯金が最後の硬貨だけになろうと自らの直感を信じて進み続けた。キャンピングカーを動かすガソリンが無くなる前に私の直感が動かなくなる前にどこかで売りに出せと訴えかけた。

私は自分の直感を信じ、ちょうど近くにあった中古の車を扱うショップに行き、乗ってきたキャンピングカーを売りに出した。考えていた金額よりも少しばかり安価な金額だったがそれでも資金になるならと売りに出した。

私は残された僅かばかりの貯金と車を売りに出した代金を握りしめ、最後の豪遊を図った。コンビニや高級スーパーで直感が求めるままに商品を購入し、直感が定めるままに高級ホテルに宿泊し一晩を思うままに過ごした。

「直感に委ねる人生は最高だわ!」コンビニで購入したビールを片手に夜景に乾杯をし、私は明け方近くまで呑み続けるとチェックアウトの時間まで眠りについた。

 次の日、私はチェックアウトを済ませると直感に判断を委ねてホテルマンに部屋に忘れ物をしたと言ってホテルマンと共に一時的に部屋に戻った。

「確かこの辺に置いておいたはずなんです・・・」とホテルマンと探すふりをして、私は別室の部屋の窓を開けた。

「あ、お客様、忘れ物ってこれではないですか?」そういって別室に訪れた私を追いかけたホテルマンが見た光景は人一人が通れそうなぐらい隙間の空いた窓とそこから下を覗くと見える人が行き交う歩道に真っ赤な血を流して倒れる私の見るも無惨な死体だけだった。


直感なんてものは当たれば当たるほどその信用価値は下がっていくが、それでも当たると信じていれば当たるものはあたってしまう。この悲劇は人間に備わる第六感、当たりすぎる直感を信じすぎてしまった女の話である。

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