第六感 第六感

エリー.ファー

第六感 第六感

 たぶん、私はあの人に好かれている。

 そんな気がするのだ。

 もう、何を言われてもあの人を好きになることはないけれど。

 でも。

 分かる。

 気が付いてしまう。

 その日、雨が降っていた。

 朝から夜まで水浸しの街は、ありふれた景色だった。

 私は、あの人の影を見つめていた。

 あるはずもない。

 でも。

 目で追いたい。

 これは、私の第六感。




 あの人に目で追われている。

 私は、好かれているのだろう。

 少しだけ自分のことが好きになる。

 遠くから愛でること。

 全体的な総量を考えること。

 おそらく、大切と呼べる何かになること。

 父にも母にも教えてもらった。

 自分を大切にするという約束。

 愛が形になる。

 恋を知った。

 握りしめて生きている。

 健全からほど遠い思考。

 これもきっと、私だけの第六感。

 あなたに共有することのできない、私のための第六感。




 僕はきっと愛されている。

 こんなにお世話をしてもらえて、しかも、失敗しても笑ってもらえる。

 嘲笑なんてない世界。

 ここから先の厳しさを知っているから。

 今だけは愛に溢れた世界を作り出す。

 そんな予想。

 いや。

 これは僕の第六感。

 だからこそ、今だけは享受する。

 この愛を。

 それが愛される側の第六感。




 俺は愛されている。

 形なんてない。

 すべて概念だ。

 けれど、分かる。

 それは俺だけの第六感。

 誰かに尋ねなくてもいい。

 自分自身。

 きっと、俺は誰かを愛することだってできるだろう。




「第六感って、何だろうね」

「何でもいいんじゃない」

「いいわけないよね」

「つまり、勘でしょ」

「まぁ、そうなんだろうけどさ」

「当たることあったりするの」

「ある」

「どんな時」

「今」




「おばあちゃんが、今月の初めにね、言ったの」

「うん」

「たぶん、死ぬからって」

「えぇ」

「で、亡くなったでしょ。なんか分かってたのかなあって」

「いやあ、どうだろうね。たまたまじゃないの」

「たまたま当たったら、分かってたってことになるでしょ」

「ならないでしょ」

「ならないか」

「ならない、ならない」

「でも、おばあちゃんって第六感が鋭かったよね」

「それは、そう思う」

「なんだろうね。第六感って」

「おばあちゃんを、おばあちゃんたらしめていた要素かな」




 私は愛されている。

 愛を知った。

 愛を失った。

 愛を手に入れた。

 愛を奪った。

 愛を勝ち取った。

 今、幸せだ。

 でも、本当に幸せなのか分からなくなる。

 第六感で、自分を知る。

 きっと、幸せのはずだ。

 私の第六感は上質なのだ。

 お母さんにもそう言われた。




「今、言い訳しようとしてるでしょ」

「しないよ」

「いや、しようとした」

「だから、しないって。なんで、そう言うんだよ」

「第六感」

「第六感って」

「でも、あんたの浮気は当てたから」

「でも、俺がやる前には当てられなかったよね」

「なんで、そんなに偉そうに言えるの」

「偉そうに言ってるんじゃなくて、正しいことを言ってるから」

「このまま一緒にいても幸せになれないね」

「そうだね」

「私の第六感がそう言ってる」

「俺の第六感もそう言ってる」




 第六感に幸せを運んでもらいたい。

 小さな小さな望み。

 見えないくらいの小さな、私の第六感。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

第六感 第六感 エリー.ファー @eri-far-

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ