第六感は第六感を呼ぶ

凹田 練造

第六感は第六感を呼ぶ

   プロローグ


 第三惑星をつかさどる神、ウッヒョイ総帥は、ゆううつそうな顔できく。

「すると、会わなくてもいい二人が、出会ってしまう、と」

 ドラゴン列島を統括する、アパッパ司令官は、恐縮して答える。

「はっ、どうやら、そうなる運命のようです」

 ウッヒョイ総帥は、小さく頭を降りながら、

「なんとかならんもんだろうか」

アパッパ司令官は、ため息をつき、

「運命ですから、難しいとは思いますが、できるだけやってみましょう」


   W−10


 私は赤いサソリ。殺し屋よ。

 誰も私の顔を知らない。誰も私の本名を知らない。

 自分でも、きわめて優秀な殺し屋だと思う。

 ふと、奇妙な予感を覚えた。誰かが、私の前に現れる感覚。

 職業がら、第六感は発達している。よほど勘がよくなければ、この仕事、生き残っていけない。

 まあ、いいわ。現れたら、チェーンソーでも切れない、ネックレスの強い鎖で、しめ殺してあげるから。

 私の第六感では、10日後に、そいつと遭遇するだろう。


   M−9


 俺の名は、青いコブラ。

 狙った獲物は外したことがない、とびっきりの殺し屋だ。

 ふと、おかしな幻想が浮かぶ。何者かが、俺の命を狙って来るだと。

 いわゆる、第六感というやつだ。これまでも、何度となく、こいつに助けられてきた。 

 何かで、俺の首をしめようとするイメージだ。

 おもしろい。それなら、こっちは、得意の投げ縄で首を引っかけてやろう。近づく前にやっつけちまえば、俺の首をしめるなんてことは、できっこないからな。

 俺の第六感では、それは9日後のようだ。


   W−8


なんだか、変な予感。

 これも、第六感かしら。

 丸い輪が飛んできて、私の首をしめようとするなんて。

 冗談じゃないわ。そんなもので、やられてたまるもんですか。

 それならこっちは、ナイフを用意してやるわ。飛んでくるものを切り落として、逆に相手に切りつけてやる。

 私の第六感では、そいつは8日後にやってくるみたいね。


   M−7


 なに。

 この俺をナイフで狙うだと。

 なんちゅう子供だましの第六感だ。

 百戦錬磨のこの俺が、そんなものでやられてたまるか。

 それならこっちは、長めの刀を用意してやる。俺に近づく前に、斬り殺してくれるわ。

 俺の第六感だと、そいつがあらわれるのは、7日後だな。


   W−6


 えっ。今度は刀。

 なんてしつこい第六感なのかしら。いくらなんでも、執念深すぎるわね。

 でも、そう簡単に、斬り殺されてたまるもんですか。今まで、どれだけ危ない状況を、切り抜けてきたと思ってるのよ。

 こうなったら、そっと近づいて、毒を仕込んだ注射器で毒殺してやるわ。

 それでこそ、赤いサソリの面目躍如ってものよ。

 目にもの見せてあげるわ。

 私の第六感だと、私が腕を発揮するのは、6日後ね。


   M−5


 なーにー。毒の注射だとー。

 なんてふざけた第六感なんだ。第六感のくせに。

 もうこうなったら、毒の吹矢で、近づくひまもなく、殺してやるぞ。

 筒をくわえて、思いっきり吸って、いや、毒の矢を吸ったら、自分が死んでしまうわ、思いっきり吹いて、勢いと毒で倒してやる。

 それでこそ、青いコブラというものだ。

 ざまあみろ。

 俺の第六感だと、その日は5日後だ。


   W−4


 吹き矢ですって。私をなんだと思ってるのよ、この第六感は。

 第六感の風上にも置けないわ。

 仕方がない、最後の手段ね。

 超小型のピストルで、一瞬のうちに射殺してあげるわ。世界最小の、サイレンサー付きピストルよ。

 覚悟しなさい、第六感。

 私の第六感では、その日が来るのは、あと4日後ね。


   M−3


 ピ、ピストルだとー。

 ふざっけんじゃ、ねえっ。

 そんことされたら、死んでしまうじゃないか。

 とんでもねえ第六感だ。

 もう、こうなったら、多少危ないのは我慢しなくっちゃなんねえ。

 組立式のライフルを持っていくとしよう。

 なに、蜂の巣にしたあと、すぐに分解して立ち去れば、捕まるおそれはあるまい。

 これでもう、第六感も、ぐうの音も出まい。

 俺の第六感だと、その日はいよいよ3日後だ。


   W−2


 ふと、私に第六感がささやく。

 そうか、一つ手前の駅で降りればいいんだわ。

 そうすれば、おかしなやつと出会わなくてすむじゃないの。

 なーんだ、今まで、悩んで損しちゃったわ。

 これでもう安心。

 第六感だと、2日後だから、その日は一つ手前の駅で降りよっと。


   M−1


 そうだよ、そうじゃないかよ。

 たった今、第六感がひらめいた。

 一つ先の駅まで乗っていきゃあ、あの変な第六感のやつに出会わなくてすむじゃねーかよ。

 なんで今まで、気がつかなかったんだよ。

 これでもう、第六感のやつにやられる心配はなくなったわけだな。

 よし、第六感だと、その日は明日だ。


   エピローグ


 ウッヒョイ総帥は、呆然とした表情で、立ち尽くしていた。

「おなえなー」

 アパッパ司令官も、真っ青な顔で答える。

「いや、そんなこと言ったって」

 二人の足元には、死体が二体、転がっていた。

 仰向けの女性は首をしめられていた。

 その上にのしかかった男は、大きな石で頭を割られていた。

 アパッパ司令官は、うろたえながらつぶやく。

「女が、最期の力を振りしぼって、石で男の頭をかち割ったのでしょう。男も、最期の力を振りしぼって、女の首をしめ続けたのでしょう」

 ウッヒョイ総帥は、我慢できなくなったように叫ぶ。

「そんなこたー、どーだっていーんだよ。

 お互いに逆の方向から来てるんだから、一つ前と一つ後ろで降ろしたら、結局おんなじじゃねーか」

「そりゃ、あんたはだまって見てるだけだから、なんとでも言えるだろーよ。こっちは、あれだけエキサイトした二人の注意を他に向けるのに、必死だったんだからなっ」

 アパッパ司令官は、ふと思い出したように言う。

「それにしても、出会うはずの少し前の時刻に降りた女と、少しあとの時刻に降りた男が、どーして出会ってしまったのだ」

 アパッパ司令官の疑問に、ウッヒョイ総帥が、はき捨てるように答える。

「二人とも、なれない駅で降りて、迷っているうちに、バッタリ出会っちまったんだよっ。

 まったく、ちったぁ考えろってんだ」

「総帥こそ、もうちょっと、アドバイスっつーか、チェックっつーか、サポートしやがれってんだよっ」

 二つの死体のすぐそばで、神と神のしもべは、いつまでもいつまでも、責任のなすりつけ合いを続けていた。

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