ひまり天気予報

ハルカ

娘の天気予報

 娘の天気予報はよく当たる。


「ひまりちゃん、今日の天気はどう?」

 そう尋ねると、娘は空を見上げて答える。

「もしかしたら雨が降るかも。傘を持っていったほうがいいよ」

「わかった。ありがとね」


 今朝は綺麗な青空が広がっている。とても雨が降りそうには見えない。

 でも、娘の言葉を信じ、傘を一本持って仕事に向かう。

 その日の夕方。仕事を終えて職場を出ると、雨がしとしと降り始めていた。

 予報は大当たりだ。


 きっと娘には第六感のようなものが備わっているのだ。

 常人にはない、素晴らしい感覚が。

 親馬鹿であることは百も承知だが、娘の天気予報が当たると嬉しくなる。なんなら同僚に自慢することさえある。同僚たちは素直に驚いてくれたり、褒めてくれたり、あるいは「今日のひまり予報は?」なんて聞いてくれたりもする。

 みんないい人ばかりだ。


   ***


 ある日、いつものように娘に尋ねた。

「ひまりちゃん、今日の天気はどう?」

 娘は空を見上げ、そして首をかしげた。

「う~ん、よくわかんない。晴れそうな気がする」


 娘が言葉を濁すのは珍しいが、それでも傘は持たずに出勤することにした。

 なにしろ娘が「晴れそう」と言っているのだから。


 たしかに、朝のうちは快晴だった。

 今日のひまり予報も絶好調だと信じた。

 ところが家を出てからどんどん雲行きが怪しくなり、職場に着く頃には分厚い雲が空を覆ってしまった。しかも刺すような寒さである。


 昼頃になると雪が降り始めた。

 さすがの娘でも、雪を予測するのはまだ難しかったのかもしれない。

 同僚が置き傘を二本持っているというので、ありがたく一本借りることにする。


 娘は予報が外れてがっかりしているだろうか。

 帰宅して一番に、声をかける。

「今日はまさか雪になるとは思わなくてびっくりしたね。たまには予報が外れることだってあるよね」

 娘は言った。

「いつも見てる天気予報のアプリが、今朝はメンテナンス中で見れなかったの」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ひまり天気予報 ハルカ @haruka_s

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ