“ありがとう”の観察

シュタ・カリーナ

第1話

 いきなりだが僕には人の頭の上に数字が見える。物心がついた時からずっと見えていて、みんなも見えているものだと思っていた。僕にしか見えていないとわかったのは小学生の時だった。

 小学生の時はまだ何の数字かわからなかったが中学生になって観察してようやくわかった。


 ――この数字は、人が誰かに“ありがとう”と言った回数だ。


 例えば、クラスメイトが友達に物を拾ってもらえてありがとうと言えばピッと数字が一つ増える。

 例えば、クラスメイトが友達から物を借りてありがとうと言えばピッと数字が一つ増える。


 このありがとうの数字は年が変わるごとに0回にリセットされる。

 今日は七月十四日。一月一日から百九十五日経っている。

 あの女子は1760回。一日平均約9回。この人はよくありがとうと言っている。

 あの男子は1464回。一日平均約7.5回。この人は平均的だ。

 あの悪な感じの男子は780回。一日平均約4回。この人はあまりありがとうは言わない。ちなみにこの人を観察してわかったが「あっす」でもカウントされるらしい。


 こんな感じで僕はありがとうの数が見える。

 僕のはどうかって? 一度鏡を見て自分の数を見ようとしたのだが自分のは見えないらしい。おそらく平均以上はあるはずだ。


「おはよう」

「あ、おはよう桜井さん」

「挨拶返してくれてありがとう」


 今僕に挨拶をしてきたこの女の子は僕が一眼置いている人だ。なにせこの人の数字は『2340回』。一日平均約12回。僕が今まで見てきた中でダントツだ。今だって1回増えた。

 だから僕は毎日ほぼ無意識にこの人のことを目で追っている。


 彼女は僕に挨拶をし終えると自分の席に座る。そこで友達とおしゃべりをして……1回増える。

 彼女はとにかく感謝の気持ちを忘れない良い人だ。


◇◇◇


 いきなりだけれど私には人の頭の上に数字が見えます。それは私の物心がついた時からずっと見えていて、みんなも見えているものだと思っていました。私にしか見えていないとわかったのは中学一年生の時でした。

 小学生の時はずっと何の数字かわかりませんでしたが中学生になって周りをよく観察をしてようやくわかりました。


 ――この数字は、人が誰かに“ありがとう”と言われた回数だ。


 例えば、クラスメイトが友達に物を拾ってありがとうと言われればピッと数字が一つ増える。

 例えば、クラスメイトが友達に物を貸してありがとうと言われればピッと数字が一つ増える。


 このありがとうの数字は年が変わるごとに0回にリセットされます。

 今日は七月十四日なので一月一日から百九十五日経っています。

 今通りがかったあの女の子は1555回。一日平均約8回。この人はよくありがとうと言われています。

 あの男の子は1450回。一日平均約7.4回。この人は平均的な数字です。

 あのいかにも不良な感じの男の子は584回。一日平均約3回。この人はあまりありがとうと言われないようです。


 このような感じで私はありがとうの数が見える。

 私のも気になって一度鏡を見たのだけれど、残念ながら自分のは見えませんでした。おそらく平均以上はあるはずです。


「おはよう」

「あ、おはよう桜井さん」

「挨拶返してくれてありがとう」


 今私が挨拶をしたこの男の子は私が一眼置いている人だ。なにせこの人の数字は『2305回』。一日平均約11.8回。私が今まで見てきた中でダントツの数字です。今だって私がありがとうと言ったことで1回増えました。

 実は私は彼の回数を増やすことに嵌っているのです。元々他より数字が高い彼ですが私がありがとうと言うことによって更に数字が増えていくのです。それが快感でたまらないのです。

 この前の六月の中頃に私がありがとうと言って2000回になった時はそれはもう最高の瞬間でした。私は歓喜したあまりつい彼の前で「やった!」と喜んでしまいました。あの時は本当に恥ずかしかったです。


 私は彼に挨拶をし終えると自分の席に座る。そこで私のお友達とおしゃべりをします。

 その間彼は私のことを見ています。目立たないように見ているつもりなんでしょうが私にはバレバレです。私に気があるのでしょうか。もし彼が私に告白をしたら喜んで受けましょう。

 なにせ彼は、周りから良く感謝される良い人なのですから。

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“ありがとう”の観察 シュタ・カリーナ @ShutaCarina

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