二. 愛

 萌音もねちゃんが中学一年生の時。ボクを家族の一員として迎え入れてくれた日から二年の月日が過ぎた。

 彼女は中学三年生になっていて、ますます可愛さが増している。ボクも負けじと萌音ちゃん一家の愛情をたっぷりと受けてすくすくと(可愛く?)成長中なのだ。


 食事だって義務的に与えられたものじゃない。白い陶器のボウル型の器。ボクの肉球と同じイラストが描かれているから食べ終わると見える、楽しい器。萌音ちゃんがボクのために選んでくれたもの。そこへキャットフードや、たまに高級そうな缶詰のご飯が盛られる。

 たったひとつの器だけでどんなご飯も特別になるし幸せになる。

 沢山の知らなかった、何でもない普通で当たり前の日常を萌音ちゃん家族はボクにいっぱい教えてくれた。

 ここへ来たばかりの頃は無知と好奇心が勝って、悪戯したりトイレもあるのにあちこちにして汚してたっけ。自由に走り回れる楽しさを今まで知らなかったから。いっぱい家中走った。

 でもむやみに怒ったりしないでわかるまで何度も根気強く教えてくれた萌音ちゃん。ボクはそんな君のことをどんどん好きになっていったんだ。

 

 そうして、お気に入りの友達を口に加えながら家の中を意味もなく徘徊する。友達とは三毛猫のキラ。萌音ちゃんがそう呼んでいるから。でもね、キャットフードもねずみのおもちゃもいらないんだ。キラはぬいぐるみだからね。

 萌音ちゃんはボクが寂しくないようにって大事なぬいぐるみをくれたんだ。そんなこんなで今ではキラが一番の友達になった。


「ミルク、またここからのぞいてるのね? 萌音、もうすぐ帰ってくるわよ」

 ママさんが乾いた洗濯ものを取り込みに二階へ上がってきた。


 そう、ボクのとっておきの場所がここ。

 階段を登り切った先の、南側に面した場所に萌音ちゃんの部屋がある。大きくて三方向見渡せる出窓があって、そこから見える景色がお気に入りなんだ。

 緑豊かな絶景というにはほど遠いけど、家々が建ち並ぶ閑静な住宅街。朝から様々な人々が歩き、宅急便のトラックや郵便配達のバイクが忙しく走る。

 そして現在。下校途中の小学生の楽しそうな甲高い声が飛び交う。

 そんな何でもない日常を垣間見れる、とっておきの場所から眺める景色はまるで動く立体絵本のようで楽しいんだ。

 ママさんが洗濯ものをそれぞれの引き出しにしまい終えて、またボクの所へ戻ってきた。


「ミルクおいで、よしよし」


 ボクの名前を呼びながら体や顔を撫でていく。

 特に目頭に近いおでこ辺りを指で優しく撫でられるのが一番好きだ。ちょっとマニアックな所を撫でられるのが好きな、変わった奴だろ?

 萌音ちゃん家族はボクのことをミルクと呼ぶ。

 混じりけのない真っ白な毛並みを見て『牛乳みたいに白いから名前はミルクだよ』と萌音ちゃんが名付けてくれた。

 男にミルクだなんて可愛すぎる名前だよなって思ったりしたけどな。でもそんなに嫌じゃないし、むしろ結構気入っているんだ。








 






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