第124話     幸せ者だな

 既にあれから10分以上は、争い合っている。幾ら体力があるとはいえ、これは流石に辛い。相手も苦しそうに、呼吸を乱れ始めていた。

『クソ。鍛えているだけあるな、伊達じゃないわ。かなり強くなってる。…初めて俺負けるのか?……それとも自分が弱くなってる?……嫌々冷静になれ…まじタキのせいにはさせたくない。…俺の攻撃パターンのイメージトレーニングしていたって事は、その逆に今まで俺がやった事がない攻撃をすれば良いって事だよな。簡単な答えだ…でも他に何がある…?』

 攻撃を交し、攻撃を仕掛けたりと目まぐるしい攻防戦がいつ終わるのかとも分からない状態だ。周りを囲んでさっきまで騒いでいた連中も、今は息をのむように、静かに見届けている有様だ。時折間合いを取りながら、色々と考えていたところ、有る事に気が付いた。

『……あった…でもあれはな~…にしても、この方法はあまり使いたく無いんだよな。攻撃的にはかなり痛そうだし、何よりカッコ悪い気も…する。逆に俺がやりそうも無い攻撃方法だと思うから、意表はつけるよな。…しようがない…』

 考えが纏まったら、後は簡単だ何としてでも、接近戦に持ち込むだけだと。


 今までの攻撃方法とは異なり、今度は自分に積極的に近づこうとしているシュトラスに、違和感を感じていたエドヴァルドは、何か企んでいる事はすぐに気が付いた。

『何だシュトラスの奴。行き成り攻撃のやり方を変えてきやがった。もう体力に限界が近づいて来ていて、俺に勝てないと踏んで、焦りと苛立ちで気でも触れたか?それとも…早めに決着を付けようとしているのか?…後者の答えならそうはさせるかよ』

 エドヴァルドは、懐に入ろうとしてくるシュトラスを、ことごとく回避していたが、目まぐるしい程に攻めてくる攻撃に、少しづつ焦り始めていた。

『本当に疲れているのか?』

「…やけに俺の懐に入ろうとしてるな。俺はお前と〇〇と違って、そんな趣味は持ち合わせてねぇよ」

 そんな冗談でも言ってないと、やってられない自分もいる。その自分が放ったある一言のキーワードが刺さったのか、一瞬シュトラスの動きが止まったようにも見えたが、直ぐに何も無かったかのように、攻撃をかましてきた。

「……はぁん!俺こそあんたみたいな。ごっつい系は、タイプじゃねぇよ。可愛い系が良い」

「知って…グッ」

 その直後に、腹を蹴られて後ずさる。

「ゲホッゲホェ」

 いったい何が起きたのか、何時攻撃されたのか分からない。理解が出来ないまま腹を押さえながら、シュトラスの方に視線を向けると、今までとは違い、怒りにも似た瞳の色をしている。自分が勝手に思い込んでいた事とは言え、舐めてかかっていた事に後悔していた。

 その後の流れは、シュトラス優勢に傾いてしまった。考え過ぎたせいだ。そんな時足に激痛が襲う。

「ぁっ!!」

 苦しんでいる間に足元に隙が出来てしまった様で、足払いを受けてしまい苦痛な顔をさせながら、バランスを崩しかけたが、何故か転ぶ寸前シュトラスに襟元を掴まれ、完全に倒れる事は無かった。

「…シュ…」

「やっとあんたの懐に潜り込めたな。それにこの争いの場に、あいつの事は持出すんじゃねぇよ。あんたと殴り合いが出来なくなるだろうが」

『しまった。これは禁句』

「…悪いな。俺の勝ちだ。このグループを抜けさせてもらうよ」

 そういうや否や、今度は両手で襟を掴み上げると、思いっきり頭突きをかました。まさかシュトラスが、そんな技で来るとは夢にも思わなかっただろう。何時も頭突きはカッコ悪いと言って、やった事がなかった。主に蹴りか拳でアスラ達と交戦していたのだから、まずはそれは無いだろうと思った事が、逆を突かれた感じだ。額に衝撃を食らい怯んだ隙をついて、今度こそ得意の回し蹴りが見事にクリティカルヒットを食らわせる事ができ、短い悲鳴と共に、先輩はその場で倒れ込んだ。


「ふぅー」

 やっと決着が付き、髪を結んでいたゴムを無造作に取ると、綺麗な金髪が流れる。

「くそぉー負けた!…でも気持ちのいい負け方だ。正直お前が上に立ってからというもの、楽しかった。学生だけのただの喧嘩だけじゃなく、ギャングにまで喧嘩しかけて、圧勝した時は、スカッとしたのを今でも覚えている。俺じゃ絡まろうとは思わなかった事だ…今までサンキューな」

「俺も楽しかったよ。エドヴァルド ・…ワークター・サヴァン今までありがとうございました」

 深々と頭を下げるシュトラスに、笑顔で答えた。

「ああ。お前も頑張れよ…兄貴にもお前が頑張ったの伝えておくよ。…兄貴の言葉を出して、負けたのはしゃくだが……本当に兄貴の連絡先知らないままで良いのか?」

「…ああ。知らないままの方が、お互いに良いだろう。ワークターもいい加減本気になれる好きな奴がいるかもだし、今更昔の男から、連絡されても困るだけだよ」

「そうか…」

「……それに今では俺には、可愛いタキがいるからな❤️」

 今までしんみり的に、会話をしていたのが、タキの事となったら、急に明るく言ってきたシュトラスに、笑いが止まらない。

「ははは。そうだな。さっきはタキの悪口を言ってすまなかった…な…もう……」

 それだけ伝えると限界が来ていたのか、そのまま瞳を閉じて、意識を飛ばしてしまった。その後仲間達に囲まれて、頑張れよの励ましのハグをされる。中でも大泣きしながら、アイヴァンが抱き着いてきた。

「わぁぁーシュトラスさ~ん。ありがとうございます!俺一生シュトラスさんに着いて行きます。シュトラスさんがお医者さんになったら、毎日通院に通い続けますねぇぇ~そして受験頑張ってくださーい」

「ww。なにバカな事言ってるんだ。着いて来るな。ずっと健康体でいろよ。俺の所の病院に来たら、張り倒すからな」

「そんなぁ~ぅぅぅ~…そのまま入院でも構いませ~ん」

 まったくと思いながらも、よしよしと頭を撫でて、アイヴァンを慰めていた。

『最近抱き着かれること多いな……ああそうか。もう髪を伸ばす必要ないんだな。可愛い彼氏いるし…アベルと違って』

 そのアベルと違ってを強調させてみると、顔が緩みそうだ。


 外に出ると、綺麗な夕日がまだ眩しい輝きを見せていた。きっと心配しているであろうタキに電話を掛けて無事だと勝利したと、早く知らせないとと思い、スマホ片手に車の中に乗り込み数回のコールの内に、タキの声が聞こえてきた。

『シュトラス』

「ああ。タキ無事に全て方が付いたよ。怪我もしてないよ」

『本当に?良かった~。これで安心してご飯も喉を通るよ』

「www。それは悪い事したな。安心して食べてくれ。明日家に遊びに行くから」

『うん。待ってるよ。明日詳しく教えてね』

「おぅ。俺の武勇伝を聞かせてやるよ」

 電話口でタキは、笑っていた。

 それから暫く他愛の無い話をしていたが、タキの後ろからパパさんの声が聞こえてきた。どうやら夕飯の時間の様だ。

「夕飯みたいだな。それじゃタキ明日な。…愛してる」

『…僕も愛してる。シュトラス…また明日ね』

 タキからの愛してるの言葉に、心が温かくなってくる。以前なら絶対言ってくれなかった言葉が、今では恥ずかしながらも言ってくれる。

「…俺って幸せ者だな」

『でしょ』

 タキも笑っている。何故か後ろでパパさんのパタパタと走っている音と、テリーの煩いパパと叫んでいる声が聞こえてきている。きっと。俺の可愛い息子が、こんな事を云うなんてぇ~って、錯乱状態しているのかも知れない。

 電話を切ると、改めてしみじみとアジトになっていた此処にはもう二度と来ることは無いだろうと思うと、急にしんみりもなって来る。色んな思い出が詰まった場所だ。1年かかりで此処の廃墟を見つけてから、今日まで…ワークターが作った……。

 暫く想い出に浸っていると、タキの声を聞いて緊張が解けてきたのか、いきなりジーーンと額から痛みが出てきた。痛みに耐えながら、その部分を指で触ってみると、少し腫れているのが指の先から分かった。

「明日までには治まってくれると良いんだけどな。タキに怪我なんて無いなんて、言っちゃったし、これじゃ心配された上に怒られてしまうな。何とか前髪で隠して…」

 ミラーで自分を映すと、たんこぶが見えない様に前髪を色々と変えてみていた。


 その頃リキータの職場では、最後のお客さんを送り出すと、後に残ったのは店内に流れるBGMと、従業員の声だけが聞こえる。落ち着いた事もあり、のび~と身体を解して身体を捻っている時、何気に時計に視線を向けると、18時半を差そうとしている。終了時間まであと1時間半。このまま落ち着けば良いなとも思っていた。

「少し落ち着いたわね。休憩時間取れるかな?」

「そうね。次のお客さんの来店してくるその間お茶でも飲んで、ブレイクタイムしようか。珈琲淹れるよ」

「「ヨロ~」」

 リキータともう一人の仲間は疲れたーと、言わんばかりに近くにあった椅子三脚を向かい合わせに揃えると、座り込み談笑を始めた。


 暫くして、裏の休憩室で人数分の珈琲の準備をしていたソフィーが、何故か自分の鞄を持って騒ぎながら走って来た。

「リッキー鞄の中から、スマホ鳴ってる」

 それに驚いて、咄嗟に子供達の顔が浮かんでしまった。

「こんな時間に誰からだ!?家で何かあったかしら?」

 パパが居るから安心だと思うけどと思いながらも慌てて鞄の中から、スマホを取り出すと、家からではなくって、お客様直々からの連絡だった。

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