Occult Detective Imitation
misaka
第1話
土曜日。
日も暮れた閑静な住宅街。
ぽつぽつと灯る街灯に照らされるその道を彼女――
彼女以外、暗い道に人影はない。
それでも当人だからこそ、分かるものがあった。
誰かにつけられている!
初めは小さな変化だった。
いつもはワンッと元気に鳴いて挨拶してくれる近所の柴犬・ハクが、その日は彼女を見て唸り声をあげたり。
あるいは。
学校でジッと、誰かに見られている気もしていた。
気にするあまり、昼休み、友人と駄弁りながら下りていた階段で足を滑らせ、危うく落ちそうになったりもした。
さらには。
放課後、部活の着替え場所へ急いでいた彼女のすぐそばを、どこからか飛んできたサッカーボールが彼女の顔をかすめた。
そんな些細な変化のせいだろう。
いつもは日が暮れる前に帰るよう、意識していたのに。
所属する陸上部の高跳びの練習をしていた時に集中力を欠き、足をひねってしまった。
手当てをしていると日が暮れてしまい、いつもより遅い時間に帰ることになってしまった。
そして、運悪く。
暗闇の中、誰かにつけられている。
小さな異変の積み重ねがゆっくりと、緋能登の恐怖を加速させる。
今、背後から何となく感じる気配。
彼女が通っている『
足音が聞こえるわけでもない。
視線を感じるわけでもない。
ただ、“何か”がそこにいる奇妙な感覚がずっと彼女に付きまとっている。
「だ、誰?!」
勇気を出して振り向いても、誰もいない。
もしこの事態が他人事ならば、噂や都市伝説と言ったホラー系が大好きな緋能登は嬉々として、この話を聞いただろう。
しかし、あくまでそれは自分には関係が無いという前提があるわけで。
彼女にも人並みに、恐怖心というものがあった。
振り向いたまま、いつでも逃げられるように身構えつつ、目だけで暗がりを追う。
何も、いない。
が、絶対に“何か”いる。
脳裏をかすめたのは中学時代のトラウマ。
このままだと家に着く前に、動けなくなる……。
そう判断して、彼女は家まで全力で走る決意をした。
種目は高跳びとはいえ、彼女も陸上部。足には自信がある。
目を閉じて、深く深呼吸。
気合を入れて、いざ走ろう!
と覚悟とともに開いたその瞳が、ソレを捉えた。
街灯に照らされて立っている人影。
ソレは死に装束のような真っ白な服を着ていた。
剃髪のせいで良く見える――見えてしまうその顔に目玉はなく、ただ落ちくぼんだ眼窩だけが、じぃっと緋能登を見ている。
半開きになったままの口の口角は上がっており、怖がっている緋能登を見て楽しんでいるように見えた。
しかし、同時に。
なぜだか彼女はソレを見た時。
見覚えがあると感じた。
友人関係は広いとはいえ、知り合いの中に剃髪の人物などいないというのに。
と、恐怖で体が動かない彼女が見つめる先で、ソレが一歩足を踏み出す。
それだけで。
硬直した緋能登の身体が警鐘を鳴らす。
こっちに来る!
動くようになった体で真っ先に、邪魔なカバンを投げ捨てる。
そのまま異様な人影に背を向けるように転身し、全力で駆け出す。
早く、早く家に……!
しかし。
どれだけ全力で走っても、背後にぴたりとついてその気配は消えない。
むしろ少しずつ近づいているような気さえする。
そして、通学路の途中にある一本道の、その神社の入り口に差し掛かった時。
背後に迫っていた“何か”の気配がフッと、消えた。
霊験あらたかな神社。
そのご利益だろうと、緋能登は足を止める。
膝に手をつき、冷や汗をぬぐって、
良かった……。
と緋能登が安心したのもつかの間。
ソレが街灯に照らされて、今度は彼女の前にいた。
ちょうど、帰り道を塞ぐように。
高いブロック塀で囲まれた左手にある空き地と、右手の丘の上にある神社以外、建物らしいものはない。
逃げ場と呼べるものは今来た道か、神社へと続く階段くらい。
一歩、また一歩と緋能登に近づいて来る異様な人影。
足音がしないことが、逆に緋能登の恐怖心をあおる。
「こ、来ないで!」
叫んで走り出した彼女が選んだのは、神社に続く階段だった。
学業の神様だけど、こういうことにもご利益があるかも!
そんな一縷の望みをかけて、境内に続く長い階段を上る。
ぴったりと付いてくる気配。
耳元で、何人もの声が重なったような笑い声も聞こえてくる。
神様、お願い、お願い!
都合の良い時だけ神頼みをする緋能登。
祈るように心の中で念じて、広い階段を駆け上がる。
やがて見えてくる境内の鳥居。
しかし、背後にある気配もすぐそこまで迫っている。
間に合って、間に合ってっ!
「あっ……」
疲労の溜まった足がもつれ、階段を踏み外した。
しかし、もうそこは階段の最上段。
転がり込むように鳥居をくぐり、そのまま参道に身を投げ出す。
直後。
グシャリ。
何かがつぶれる音。
次いで、
「ゲャァァァーーー……」
断末魔の叫びが聞こえた。
何事かと、上がった息も整えず、声のした方を見る緋能登。
見通しも、風通しもいい丘の上の境内。
鳥居からは、緋能登の家、御伽話学園があるN市が見渡すことが出来る。
そうして輝く人々の営みを背景にして。
そこには。
真っ白い髪を風に揺らす1人の少年がいた。
「ごめん。大丈夫?」
そう言った彼の足の下に先ほど緋能登を追っていた異形の人影がある。
それはゆっくりと黒い靄をなびかせて存在を薄れさせ、やがて消えた。
「あ、えっと……神様?」
ここが神社であること。
そして、タイミングよく表れた少年。
以上のことから、緋能登は彼を神だと判断する。
しかし、彼女の問いに小さく首を振った少年は、
「違うよ。俺は……クロア。訳あって仕事で、人助けをしているんだ」
「そう、なんだ……」
「だから、はい」
緋能登の目の前に立つ、クロアと名乗った少年は笑顔で緋能登に手を差し出す。
「あ、ありがと……」
そう言って手を取ろうとした差し出した緋能登の手はしかし、空を切る。
「そうじゃなくて」
「?」
「さっきも言ったように、俺は仕事で、人助けをしてるんだ」
「うん、さっき聞いたけど」
言いたいことがわからず尻餅をついたまま、首をかしげる緋能登。
そんな彼女に対して、
「だから、お金、払って?」
少年は
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