第167話 パスタグラタン

 テーブルに並ぶメニューは、スノーホーンラビットという魔物の肉を使った煮込み料理に、中をくり抜いて容器として丸々カボチャを使ったグラタン等々。


 厩舎から連れて帰ってきたレイもスノーホーンラビットの肉をお裾分けしてもらっている。


 ちなみにカボチャのグラタンには、僕が持っているパスタを入れてもらうことになった。


 これは宿屋の主人かつ料理人であるダインさんと特に仲の良いゴーヴァルさんの提案によるアレンジだ。


 ネメシリアでパスタを買い込んだと僕が話していたことをきっかけに、みんなが食べてみたいとなったのだった。


 ダンジョール流のパスタとしてグラタンのクリーミーさとカボチャのホクホクさ、伸びるチーズが濃厚でたまらない。


 パスタを巻いた重いフォークを持ち上げながら、アレンジを頼んでくれたゴーヴァルさんへ深く感謝する。


 流石に僕が頼むことはできなかったからなぁ。


 こんなに美味しいものと出会わせてくれて、ありがとうございます。


 しかし、ダインさんの料理の腕も凄い。


 やっぱり料理が上手いと、初見の食材でもマッチする味の系統がわかったりするんだろうか。


 フストに帰ったら、グランさんにもパスタ料理を作ってもらいたいな。


 森オークを焼きを応用したパスタとか、絶対に美味しいだろうし。


 ちなみに煮込み料理に入っているスノーホーンラビットだが、リスタちゃんも幸せそうに頬張っていた。


 ウサギの獣人だから、気になったりするのかなと思ったんだけど。


 特にそういうことはないらしい。


 こういう感覚的なところは、これまで獣人の方とはあまり関わってこなかったから新鮮だ。


 渡したパスタは全て料理に使ってもらい、残った分はお弁当にするという名目でアイテムボックスに収納しておくことにした。


 絶対にレンティア様も食べたいだろうな……と思っての行動だったけれど、案の定というか何というか。


 お開きとなった後、僕がサウナに一人で入っていると脳内に声が響いた。


『よしっ、一人になったようだね。トウヤ。アンタたちがさっき食べていたパスタ、アタシにも送ってくれないかい』


「待ってたんですか……。まあ、いいですけど。ちょっと待ってくださいね」


 周りに人がいる時に脳内で声がすると僕が困るから、気を利かせてくれたようだ。


 でも、サウナでくらいゆっくりさせてくれても……。


 料理を出すのは、マナー的にも一度外に出ないといけないだろうし。


『す、すまないね。下界のサウナでのマナーに疎くて。しかし我慢の限界なんだ。あの長ーく伸びるチーズを見ていたら頬が落ちそうだったんだよ』


『む、久しいな──我がお気に入りよッ!! 我にも同じ物を捧げるが良い──ッ!』


 レンティア様の声を聞いていると、横入りするような形でネメステッド様の声も響いてきた。


 ネメシリアを出てからは、道中で一回夢の中でお会いしただけなので、かなり久しぶりだ。


「お、お久しぶりです。ネメステッド様も観察されてたんですかっ?」


『うむ。我も仕事の合間に見ていたが、今回ばかりは我慢できなかったのだ! あのチーズは、まさに悪魔的ッ。我の欲望を掻き立てる闇に他ならぬ──!!』


『ね、ネメステッド、アンタもかい……。というか、仕事の合間にトウヤを観察してるんじゃなくて、アンタの場合は仕事をサボって見てるだろう』


『なッ。なぜ……それを……』


『アンタのところで働いている天使から相談されたんだよ。最近仕事の進みが遅いってね。アヴァロンに報告しようかと思っていたところだったんだがね』


『そ、それは。やっ、やめろ!』


 頭の中で、レンティア様とネメステッド様の会話が鳴り響く。


「お二人とも。今すぐにさっきのパスタを送るので、あとは僕の脳内に繋げずにお願いします……!」


 脳内に響く声だけでの会話は、今までレンティア様お一人としかしてこなかった。


 一気にお二人の声がしてくると、サウナの気温もあり頭痛がしてきた。


 ここは早めに対処してしまおうと、素早くは僕はサウナを出て脱衣所でパスタをアイテムボックスから取り出し、お二人のもとへ送った。


『おお! これだよこれ。すまないね、トウヤ。今日はうるさくしてしまって』


『感謝するぞ、我がお気に入りよ──! では、さらばだっ』


『おいっ。待つんだよ、ネメステッド。アンタ逃げようとしても──』


『ぬぉうッ。こ、こっちに来るでない!!』


 な、何してるんだろう一体。


 バタバタという音だけが聞こえてくるが。


『ありがとね、今日も。すまないが失礼するよ』


 レンティア様の声も、それを最後に聞こえなくなってしまった。


 はぁ……。


 なんだか一気に疲れた気がする。


 それにしても神様たちも、チーズの引力には逆らえないのかな?


 お二人揃って、いつにも増して強い熱意を感じたけれど。


 嵐のように現れて消えていった神様たちの、いかにも神様たちっぽい自由さを感じながら、ぐったりと僕は再びサウナに入ることにした。

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