彩と世界

布袋アオイ

第1話 黄昏れ

 貴方はだれ。


 日がもうなくなり、君を映すものはなくなってしまった。


 でも影の縁はなぜかはっきりとしてくる。


 もうきっと誰もいなくなるだろう神社に入り、静かに今日が終わるのを待った。


 久々に踏んだ砂に、春の音が聞こえた。


 まだ黒いダウンを羽織っているというのに、外は春を匂わせている。


 短く切った髪は毛先だけ靡く。軽い軽ーい風だ。


 耳は音楽で塞ぎ、手はポケットに隠し、顔はマスクの下で苦しんだ。


 神社の屋根に吊るされて灯籠はほんの僅かな光を灯し、私の目にはっきり写る物などひとつも無い。


 暗い世界に、気配は私の心臓の音しかなかった。


 首は下を見たまま、垂れ下がる頭を持ち上げた。


 すると霞んだ目に誰か一人居た。


 いつから、真っ正面にポケットに手を入れて立っていた。


 どことなく殺気、怒り、いや闘志を感じさせるオーラを放って、こちらをただじっと見てきた。


 黙ったままやや目線を落とし、それはまるで人を挑発するかのように気の強い姿勢だった。


 その気配を感じてか神社の拝殿に大きな神を照らす灯りが着いた。


 しかし、そんな光は私たち2人の居る場所まで明るくはしなかった。


 お互い見つめ、どの言葉も声にならなかった。それ以前に感情が言葉にならなかった。


 沈黙の時間がどれほど流れたか計り知れないが世界は刻一刻と日を落とし、あっという間に2人の顔を隠した。


 神は私たちを巡り合わせたのか、それとも怖がらせたかったのか。


 誰そ彼


 この世界で今日は黄昏時に。


 

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