第11話
☆☆☆
男子生徒たちが大西さんを連れて来たのは、学校の近くにある空家だった。
長くそこに立っている平屋はボロボロに朽ちていて、踏み入るのは勇気がいる。
しかし、男子のひとりは躊躇なく割られた窓から家に入って行く。
きっと、もう何度も入っているのだろう。
大西さんは残った男子に見張られるような形で窓枠に足をかけた。
スカートがめくれて細くて白い、なまめかしさのある太ももが露出する。
やがて彼女は軽い身のこなしで空家へと入って行ってしまった。
残っていた男子がすぐにその後を追い掛ける。
「やばいって柊真!」
空家の中でなにが行われるかわからない。
このまま無視しているわけにはいかなかった。
「警察か、それとも学校か……」
スマホを取り出してモタモタしている時間すら勿体なく感じて、背中に汗が流れて行くのを感じた。
しかし、その時だった。
割られたガラスの向こうに3人の姿が見え、大西さんの笑顔が見えたのだ。
え……?
あたしは唖然としてスマホを操作する手を止めてしまった。
隣の柊真も怪訝そうな表情を浮かべて固まってしまった。
男たちの手が伸びるよりも先に、大西さんが背伸びをして1人近づいていた。
なんの表情も浮かべずに近づく美少女に男も困惑した表情を浮かべる。
次の瞬間ピアスが付けられたその唇に大西さんが口づけをしたのだ。
あたしはポカンと口を開けてその光景を見つめていた。
キスされた男は一瞬大きく目を見開き、それからトロンとしたように目を細めた。
なんで?
一瞬にして湧き上がって来た疑問だった。
たっぷりキスの時間を取った後、大西さんはもう1人の男へ視線を向けた。
その場で大西さんの様子を見ていたその男も戸惑っている。
キスされた方の男はまるでふぬけ状態で、ボンヤリと天井を見つめている。
「あなたもする?」
鈴の音のような声がしたかと思うと、大西さんは次の男にキスをしていた。
「なにこれ……」
なんだか妙な雰囲気を感じてあたしは後ずさりをしていた。
見てはいけないものと見てしまったのではないか。
知ってはいけないものを知ってしまったのではないか。
そんな恐怖心が湧き上がる。
「行こう、柊真」
あたしは小さな声でそう言うと、柊真の手をキツク握りしめてその場から離れたのだった。
☆☆☆
「さっき見たのって夢じゃないよね?」
家の近くまで戻って来て、あたしはようやくそう言った。
さっき見た光景を今でもまだ信じられなかった。
大西さんはあのこわもての2人とキスをしたのだ。
大山君という彼氏がいるのに関わらずだ。
「あぁ。夢じゃないな」
柊真はそう言って大きく息を吐きだした。
大西さんのことはまだよく理解できていないけれど、今日の出来事で余計に理解しがたい存在になってしまった。
大西さんは実は大の男好きなのだろうか?
来るもの拒まず相手にしているのだろうか?
そう考えた瞬間、大西さんの白い太ももを思い出してその映像をかき消した。
「どうなってるのか、全然わかんない」
あたしは左右に首をふる。
すると柊真が「確かに驚いたけど、人のすることなんて気にする必要ない」と、気を取り直したように言った。
柊真は大西さんに興味なさそうだけれど、それでも少しはショックだったのだろう。
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