第10話

どうやら、大山君はそのまま警察に連れていかれてしまったらしい。



あれだけの目撃者がいる中で暴行したのだから、当然の結果だった。



このまま退学になってしまう可能性だって十分にあり得る。



放課後になっても大西さんの周りに集まってくる生徒たちはいなかった。



しかし、大西さんはそれを気にしているような素振りも見せずに帰宅準備をしている。



「心美、今日も一緒に帰るか」



柊真に声をかけられてあたしは一瞬頭の中が真っ白になってしまった。



まさか今日も誘ってくれるとは思っていなかった。



でも……。



あたしは首を動かして後ろの席の大西さんへ視線を向けたが、大西さんはすでに教室を出手行くところだった。



その姿を見てなんだか複雑な気分になる。



別に大西さんのことを気にかける必要なんてないのだけれど、自分だけ柊真と幸せ気分に浸っていいのだろうかと思ってしまう。



あたしは左右に首を振ってその考えをかき消した。



これはチャンスなのだ。



最近柊真はあたしのことをとても気にかけてくれている。



もしかしたら、このまま付き合えるかもしれないのだから余計なことを考えるのはやめよう。



チラリと心美の方へ視線を向けてみると、遊星と楽しそうにおしゃべりをしているところだった。



もしかしたらあの二人だって付き合い始めるかもしれない。



そうなるとダブルデートだってできて、とても楽しい毎日になるだろう。



そう考えるとワクワクしてきた。



「もちろん」



あたしは柊真へ向けて笑顔で頷いたのだった。


☆☆☆


校舎から出ると今日は部活動に専念する生徒たちの元気な声が聞こえて来た。



吹奏楽部のトランペットの音や演劇部の発声練習の声。



グラウンドでウォーミングアップをする体育会系男子の野太い声。



そんな声に背を向けて歩いていると不意に柊真が立ち止まった。



「どうしたの?」



「あれ……」



立ちどまって柊真の視線を追い掛けると、そこには一際目立つ美少女が立っていた。



大西さんだ。



大西さんは2人の男子生徒に呼び止められてなにやら話をしているところだった。



でも、様子がおかしいことにすぐに気が付いた。



男子生徒2人は大柄でまるで大西さんを逃がさまいとするように取り囲んでいる。



彼らが少し体を揺らすと、耳のピアスが不吉にきらめいた。



「あれはヤバイかもね……」



あれだけの美人なら危ない人たちに気に入られるのもわかる。



周りを通り過ぎていく生徒たちは時折視線を向けながらも、声をかけない。



われ関せずというより、大西さんが無表情のため助けが必要なのかどうか一見わからないからだろう。



どうしよう、先生を呼んできた方がいいのかな?



そう考えた時だった。



男たちが大西さんを連れて移動を始めたのだ。



大西さんは騒ぐこともなく、暴れることもなくついていく。



もしかしたら、さっきの会話の中で脅されたりしているのかもしれない。



「行こう」



柊真の声にあたしは頷き、3人の後を追い掛けたのだった。

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