薔薇の花束をきみに

朝日屋祐

プロローグ 在りし日の約束

 とある‘愛’のない王国には見目みめうるわしい姫君がありました。姫君の美しさは讃えられ、敬われるものでありました。姫君は聡明そうめいで、思い合われ、惹かれ合う男に会いに行きました。だが、彼は、姫君をこばびました。


 姫君は会えない思いをつのらせる。


 男に会いに行こうとしたが、行方をくらました。

 まるで永遠に姫君とは会いたくないように。


 だが、姫君の許には残酷なしらせがやって参りました。美しい姫君はこうなることはどうやら、解っていたようだった。彼は肺を病んで、命を落とした。ヒタヒタと姫君の眼からラピスラズリ色のような涙が、流れる。


 彼はどうやら、心も病んでしまい、姫君への面会にも一切許可を出さなかったようだ。彼の遺体は火葬され、彼の遺書が、見つかった。遺書にはこう書いてありました。


「お姫様へ、私の命は長くはありません。私はいまは肺を病んでおり、こんな惨めな姿であの子達には会いたくはありません。そしてなにより、私は貴女を養う経済力もなかった。どうか、お姫さまよ、お城に帰っておくれ。私とは違う男と幸せになってくれ。だが、その中でも私は貴女に最期に二言三言なにかを残すのなら、言わせてもらいたい。一つ目、私のことを決して忘れないと約束しておくれ。‘二つ目、そして’私は貴女の事を心から愛していたことを覚えておくれ。そして、三つ目、子供達のことは私のことより、大切にしておくれ」


 姫君はお城へ帰り、彼が、肺を病む前に身籠みごもっていた、愛する男の赤子達の誕生を祝った。

 生まれた息子は国王となった。弟は公爵となる。そして老年となる、姫君は一生涯、独身を貫き通した。闇龍ダークドラゴンの王国は革命を過ぎ去る。民衆が望む自由の王国を創り上げた。それはまさしく彼の‘愛’でありました。

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