幼馴染の第六感が全く使い物にならない。

和橋

幼馴染の第六感が全く使い物にならない。


 私の幼馴染は第六感を持っているらしい。


 それも自分に好意がある人が近くに居るのがわかるというなんとも意味の分からない第六感だ。


 だけど、彼の第六感は全く持って役に立たない。なぜって?

 

 今からその理由がわかるよ。



 体育館裏。少し暗くて涼しい風が吹くこの場所は、この学校有数の告白スポットだ。


 そしてそこに居るのは私の幼馴染、井田蓮人。幼稚園からの付き合いだから、えーと、多分十何年くらいの付き合い。


 幼稚園から仲は良かったし、私と蓮人の趣味が合うっていうのもあったから特に疎遠になる事もなく、これまでずっと仲の良い幼馴染という関係を続けられている。


 だけど、それも今日で終わるかもしれない。


 なぜなら蓮人は今日、告白しようとしている。それも学年有数の美女、武田沙良さんに。


 私は一度も話したことは無いけど、清廉潔白、文武両道、おまけに顔も良いと来た。


 そんな彼女に彼は第六感を感じたのだという。ある日学校で私と歩いている時に、すれ違った武田さんに。


 長らくつき添ってきた幼馴染としても、二人は成立すればいいカップルになると思う。そうでないと私が阻止するし。なんなら手伝ってあげてもいい。


 だって、蓮人は顔もいいし、身長もそこそこある。勉強は少し残念だけど、それをとっても余りあるほどにスポーツが得意で。


 そんな我が自慢の幼馴染の告白をそっと陰から覗いていたのだが。


「——ごめんなさいっ!」


 そう言って、武田さんは蓮人に背を向けて駆けだす。あーあ、今回は成功すると思ったのに。


 蓮人はがっくりとうなだれ、体育館の壁に背を向ける。そしてため息交じりに言った。


「あーあ。俺の『第六感』。今日こそは当たると思ったんだけど」


 酷く落ち込んでいる。それもそうだろう。今日で第六感を頼りに告白した人は五人目なのだから。


 一回目は私と図書館で勉強してる時に向かいの席に座っていた弓道部の美人部長、木曽さん。


 二回目は一緒に映画をレンタルしに行ったときにたまたまで会った、去年の学園ミスコン二位の奥田さん。


 三回目はたしか、私と遊園地に行ったときにたまたま会った、クラス一の美少女、霧生さん。


 四回目は廊下ですれ違った、三年の高嶺の花、氷室さん。五回目は、ご存じの通り

武田さん。


 五人ともめっちゃいい人だってわかってた。そうでもないと第六感を感じたからと言って蓮人に告白なんてさせない。まぁ、ことごとく振られちゃうわけだけど。


 はぁ、仕方ない。励ましに行ってあげよう。


 私は、けほんけほんと咳ばらいをして、存在をアピールし、蓮人に近づく。蓮人は一度こっちを見て、すぐに俯く。


呉羽くれはか。もしかして見てた?」


「うん。そりゃもうしっかりと」


「あーあ。今回の第六感はいけると思ったんだけどなぁ。なんだか、前よりも強く感じたし」


「ふーんそうなんだ。気のせいじゃない? こうやって振られちゃったんだし」


「だよなぁー。はぁ」


 ため息をついてさらに肩を落とす蓮人。なぜ蓮人がここまで連敗してしまうのかは理解に困るが、とりあえず頭をなでといてやる。幼馴染だからな。


「慰めてくれてどーも」


「いいえー。てか、逆にすごいよね蓮人。顔も……まぁ、幼馴染って言うこと抜きにしてみてももそこまで悪くないし、馬鹿だけど運動めっちゃできるし」


「馬鹿は余計だけどどーもー」


 私はよしよししながら、かなり伸びた前髪を掻きわけて新たな視線の通り道を作る。


 しばらくよしよししていると、蓮人は顔をあげ私の前髪を凝視する。


「…………」


「どしたん蓮人? 私のながーいながーい前髪に何かついてた?」


 蓮人は何も言わないまま、手を伸ばし私の前髪を思いっきり掻きあげる。


「ちょっ、なにしてんの」


「いやぁー。幼馴染っていうこと抜きにしても、呉羽そこそこ顔整ってると思うぞ?」


「はぁーー。またそういう事言う。私、ブス過ぎて小中とずっと見られてたから顔も出ないように前髪伸ばしてんのに。はなして」


「はいはい。てか、そんなに顔赤くすんなよー」


「してないわ! もう」


 私はよしよしする手を止め、前髪をいい感じに戻す。そして蓮人と同じような姿勢で体育館の壁にもたれ掛かる。


「まぁ、今回はドンマイだよ。だけど次はきっといけるよ蓮人なら。幼馴染としていい彼女ができることを祈ってる」


「ありがとな。今日は——」


「うちで映画オールしたい、でしょ」


「おぉ、正解。すごいな、呉羽も第六感もってんじゃねーの」


「そんなわけないでしょー。こんなに長く一緒に居たらなんとなく察するよ。ほら、いつまでもうじうじしてないでいくよ」


「おう」


 そうして私が立ち上がり、蓮人も遅れて立ち上がる。そして私たちは映画オールをするためのお菓子やらDVDやらを調達しに行った。


 ちなみに実は私が第六感を持っていることは蓮人にも言えない秘密の一つだ。


 どんな第六感って?


 好きな人に『自分のことを好きな人が周りに居る』ということを察知させる第六感だよ。


 自分の為に使ったことは無いけどね。



【武田沙良視点】


 この学校には三大有名カップルが居る。一組目は、生徒会長と副会長の真面目カップル。


 そして、二組目はサッカー部の部長と、テニス部の部長のイケイケカップル。


 そして、三組目は——これはカップル判定になるかわからないけど、ほぼみんなから認知されてるからみんな入れてる——飯田蓮人と、粟森あわもり呉羽くれはのてぇてぇ幼馴染カップル。


 このカップル、いっっっっっつも一緒に居るし、常に一緒に遊んでるし、なんならお泊りもお互いの家で頻繁にしてるらしいし。


 なんでそんなことわかるかって? 蓮人君、部活の友達とかにふつーに言ってるし。


 その気はないみたいだけど、これでカップルと言わなきゃ何になるの?? 


 それに、粟森さんは粟森さんで自分と蓮人君が見合わないと思ってるのか知らないけど、蓮人君に彼女を作らせようとしている。


 だけど、そんな粟森さん、前髪さえどうにかすれば多分、学園ミスコンくらいは簡単にとれちゃうんだよねー。


 と言うのも、体育のクラスマッチで粟森さんのクラスとバスケで対決をしたときのこと。


 粟森さんはあまり参加せず、ずっと端っこに居たけど、たまたま飛んできたボールとぶつかって倒れちゃって、近くにいた私が心配して駆け寄ったんだけど、いつもは重く顔に張り付いてる前髪がたまたま全部上がってて。


 そして初めて顔を見てびっくりした。お人形さんのような、こんな美形な顔を持って生まれてくることってできるんだなぁ、なんて咄嗟に思うくらいにはえげつない美人だった。


 私? 私なんて、多分粟森さんの十分の一も無いと思う。顔面偏差値。


 だから、まぁ、言えることは一つかな。


 あの二人、早く付き合え。





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幼馴染の第六感が全く使い物にならない。 和橋 @WabashiAsei

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