テレパシーで『相手が考えている夕食のメニュー』が分かる話

サヨナキドリ

パエリアとチョコレートケーキ

「うわっ」


 俺は目を丸くして口を両手で覆う。その『能力』が発動したことが、こんなにも意味を持ったのは初めてだった。


「どうしたんですか?先輩」


 そんな俺を、今日遊びに連れ出した後輩が不思議そうに見上げる。俺は耳を真っ赤にしながら目を逸らす。これは言ってもいいだろうか?もう言ってもいいんじゃないか?


「誰にも言ったことがなかったんだけど……俺、第六感というか、めちゃくちゃしょぼいテレパシーが使えるんだよね」

「先輩、いきなり何言い出すんですか?……めちゃくちゃしょぼいとは?」


 不審げに眉をしかめる後輩に、俺は答える。


「相手が夕飯のことを考えてる時に、そのメニューが分かる」

「……はい?」

「パエリアとチョコレートケーキ」

「!?」


 後輩の表情が驚きにとって変わられる。


「な?」

「ほんとうにしょうもないですね。すみませんでした、他のこと考えてて」


 言外に肯定しながら、拗ねたように後輩が顔を背ける。


「いや、怒ってるんじゃなくて——」

「?」


 頬の緩みを抑えられない俺を、後輩がキョトンと見上げる。俺は続けた。


「パエリアは母さんの得意料理で、ケーキはお祝いに食べるものだから——今晩ウチに来てくれるんだろ?俺の誕生日を祝いに」

「!?」


 後輩はさっきの倍くらい、小さく跳び上がるほどの驚きを見せた。俺はため息とも笑いともつかない息を吐き出しながらお腹を抱える。


「よかった〜。わざわざ遊びに誘われたのに何も言わないからガチで忘れられてるのかと思った」


 そんな俺を見て、後輩は頬を膨らませた後、大きなため息をついた。


「はぁ〜〜〜。完璧なサプライズのはずだったのに、こんなことでバレるなんて」

「ごめんごめん」


 笑いながら謝る俺に、後輩が正面を向ける。


「そうだ、先輩。ひとつだけ聞いていいですか?」

「何?」


 俺がそう聞くと、後輩は一歩詰め寄って俺の耳元で囁いた。


「どうして先輩は、私にお祝いされるのがそんなに嬉しいんですか?」


 今度は俺が目を丸くする番だった。

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テレパシーで『相手が考えている夕食のメニュー』が分かる話 サヨナキドリ @sayonaki

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