No.7【ショートショート】夜明けと日の出のあいだで
鉄生 裕
第1話
「お兄ちゃん、おはよう」
「・・・ああ、もうそんな時間か」
「うん。もう夏だから、夜明けも早いんだよ。そんな事より、今日の予定は?」
「う~ん、何しようかな。ゲームでもしようかな」
「またゲーム?もう、ゲームばっかりはダメだよ?」
「わかってるよ。それより、ハルカの方こそ今日はどうすんだよ。何か予定でもあるのか?」
「私は準備しなきゃ。明日が最後だから」
「・・・そっか。本当に行っちゃうんだな。もう少しここにいてもいいんじゃないか?まだ大丈夫だろ。それに、お前があそこに行ったら、もう二度と会えなくなるかもしれないんだぞ」
「それ、お兄ちゃんが言う?やっぱりお兄ちゃんは優しいね。ほら、もうすぐ日の出だよ。それじゃ、また明日」
そう言うと、妹はスッと消えてしまった。
夜明けと日の出のちょうど間。
一日に一度、たった数分の短い間。
私がお兄ちゃんと話ができるのは、そのたった数分間だけだった。
夜明けと日の出は一緒でしょ?
と言ってくる人もいるかもしれないけど、夜明けと日の出はちょっとだけ違う。
夜明けは、太陽が一瞬でも顔を出したら、それは夜明け。
日の出は、真ん丸の太陽が全部顔を出したら、それが日の出。
もっとわかりやすく言うと、太陽の出始めが夜明け。
そして、太陽が出終わったら日の出。
夜明けから日の出までは、だいたい二分くらい。
「お兄ちゃん、おはよう。今日はお兄ちゃんの方が早起きだったね」
「ああ、だって今日が最後だろ?」
「うん。ごめんなさい。でも、いつまでもこのままは良くないと思って」
「―――そっか、わかったよ。でも、一人で大丈夫か?やっぱりまだここにいても・・・」
「ダメだよ、いつかは行かなきゃいけないんだから。それなら、自分から行くべきでしょ?」
「ああ、そうだな。お父さんとお母さんには、ちゃんとお別れは言ったか?」
「パパとママは、きっと許してくれないから。だから、二人には黙って行こうと思ってる」
「・・・そうか」
「うん。・・・もうすぐ日の出だね。それじゃ、そろそろ行かなくちゃ」
「なぁハルカ、最後に一つだけ聞かせてくれないか?」
「何?」
「・・・どうして俺たちを殺したんだ?」
四日前、妹は寝ている父と母と僕の三人の首に包丁を刺した。
自分の部屋で殺された僕は、この部屋から出られなくなった。
そして、夜明けから日の出までのたった数分の間だけ、
僕と妹はお互いのことが見えるようになった。
「それは、できることなら話したくないかも」
「わかった。ハルカが話したくないなら、話さなくていいや。でも、ハルカが警察に行ったら、この家はどうなるんだろうな」
「私がこの家に戻ってくることはないだろうから、もしかしたら取り壊されちゃうかも」
「そうなったら、俺はどうなるんだろう。家が取り壊されたら、俺もそのついでに成仏するのかな」
「本当にごめんなさい。本当は、お兄ちゃんまで殺すつもりはなかったの。でも・・・」
「別に今更そんなことはどうでもいいさ。それじゃ、そろそろお別れだな」
「うん。本当にごめんなさい」
「だから、気にしなくていいって。俺の方こそ、ちゃんと守ってやれなくて悪かったな。それじゃ、元気でな」
「うん。お兄ちゃんも、元気でね」
そう言うと、妹はスッと消えてしまった。
きっとまだそこにいるのだろうけれど、彼女の姿はもう見えない。
彼女の方も、僕の姿はもう見えなくなっているはずだ。
さて、これからどうしようか。
妹のおかげでせっかく自由になれたんだ。
わざわざ両親のもとへ行くなんて馬鹿な真似はしないさ。
そうだな。
ハルカがこっちに来るまで、気長に待つことにするか。
No.7【ショートショート】夜明けと日の出のあいだで 鉄生 裕 @yu_tetuki
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