赤き血のレジスタンス~カープファンは地球を救う!〜
楠瀬スミレ
第1話 エイプリルフール
2021年4月1日エイプリルフール。
マツダスタジアムでは広島阪神戦のナイトゲームがおこなわれていた。
✴︎✴︎✴︎
私、楠瀬スミレは3塁側の内野席にいた。コロナの感染予防のために人はまばらだが、今日も球場は3塁側まで赤く染まっている。友達のカープ女子、せっちゃんが、ビールを一口飲み、から揚げをつまんで言った。
「佐賀の優子ちゃんも来れたらよかったのに」
「コロナじゃけえ、旦那さんと息子さんにダメ言われたんと」
優子ちゃんはツイッターで知り合った佐賀在住のカープ女子。やっと手に入れたチケットだけに、来られないのは残念だったろう。
「あ、ラインが来た」
朝からおかしかったラインの通知が一度に流れ込んだ。
「優子ちゃんから来とる。あれ?」
ラインの写真に写った優子ちゃんの顔がクレヨンのように真っ青だった。
「コスプレかねえ。じゃけど、変よねえ」
「
じいちゃん(私の父)が覗き込んだ。優子ちゃんのチケットがあまるので、せっかくだからと誘ったのだ。その時だ。ラジオのイヤホンを耳に突っ込んでいるじいちゃんが真剣な顔で静止画面のように動かなくなった。じいちゃんはラジオで中継を聞きながら野球を見ている。
「なんか、緊急の速報が入ったんじゃが、なんちゃら
「ええ! ほんま? それで優子ちゃんの顔、青くなったんじゃあ!」
周りにも、ラジオや携帯で情報を得た人が何人かいて、誰もがただならぬ顔つきで周りの人と話していた。そして、みんな状況をつかもうと野球そっちのけで携帯を触り始めたせいか、また携帯がつながりにくくなってしまった。
私たちの右側の席に、ハゲ頭のおじさんが戻ってきた。一人で見に来ているディープなファンのようだ。
「ワシ、トイレのラジオで聞いたんじゃけど、佐賀が宇宙人に侵略されて顔が青くなったらしいで」
笑顔で話しかけてくるので、なれなれしいオヤジだなと思っていると、
ああ~~~~
球場に観衆の残念な声がとどろき、おじさんの声にかぶさった。
「田中!! シャンとせえや!!」
じいちゃんが野次を飛ばした。田中のエラーでランナー1,2塁。阪神にリードされているだけに、残念過ぎるのはわかるが、はずかしい。やめてくれ、じいちゃん。
「宇宙人が来たら、ワシが
じいちゃんがおじさんに言った。それを聞いた隣のおじさんも鼻息が荒い。
「おう! 頼むわい! じゃが、県知事はどうするつもりかのう? 宇宙人に従う
「
東京生まれ、東京育ちのせっちゃんはそれを聞いてびくびくしている。私の耳元に唇を寄せひそひそ声で聞いた。
「ねえ、スミレちゃんのお父さん、『仁義なき戦い』が好きなの?」
本当は元ヤクザなのかと聞きたいのかも。絶対遠慮してる。でもヤクザじゃない。これが普通。
「あの年代は、あれが普通の言葉なんよ」
「ふうん」
じいちゃんはビールのお姉ちゃんがべっぴんだと言ってたくさん飲んだから、すっかり酔っぱらっている。隣のおじさんも酔っ払い。
「神奈川は封鎖されたらしいで」
「広島も封鎖するんかのう?」
「広島の県境で検問するんなら、どうやって県民を見分けるんかのう」
「そんなん
「
「ほいじゃが、宇宙人に侵略されて、顔が青くなってしもうたら、球場が真っ赤にならんじゃないか」
「ホンマよ。DeNAファンや中日ファンは、ビジター席にちょろっとおるだけで、球場は
「球場が赤いのはワシらの誇り
「そうじゃ! ローソンすら赤い看板を掲げるこの広島で(←本当です)、青いやつらにワシらの赤い魂を売るわけにはいかんで! 断固、阻止せんといけんのう」
「ほうじゃ! みんなで立ち上がろうや!」
「ほうじゃ! 立ち上がれ!」
「断固阻止じゃ!」
いつの間にか周りには人だかりができ、みんなが口々に叫んでいた。
「
「苦労して手に入れたチケットで、せっかく見に来たのに、もったいないのう。最後まで見ようや」
「
「よっしゃ。じゃあ、ヒーローインタビューでマイクを奪って呼びかけりゃあええわ」
「おう、ええで。今日はNHKで中継じゃけ、全国に届くかもしれんのう」
「ええで」
「ええよ」
「ワシらの熱い思いをぶちまけちゃれえ!」
みんな口々に「ええよ」「わかった」「よっしゃ」などと言いながら席に帰って行った。
今日、マツダズームズームスタジアムのヒーローインタビューで、真っ赤なレジスタンスが燃え上がる!
……かもしれないけど、よっぱらいばっかりだからなあ~。
〈スミレ・心の一首〉
お題 : エイプリルフール(4月バカ)
し : 初見でも
が : ガンガン声かけ
つ : つながって
ば : バカさわぎする
か : カープファンです
※この日カープは残念ながら6対3で阪神に負けました。トホホ。
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