第7話:冒険者ギルド追放
聖歴1216年1月6日:エドゥアル視点
「勇者パーティーにいたエドゥアルだ」
モンスターの暴走に対処するために大混乱している冒険者ギルドの受付で、バカ正直に順番を待ってなどいられない。
そんな事をしていたら、初めてボルドーに来た俺は何時間も待つことになる。
それではモンスターの暴走に備える事ができなくなる。
いや、勇者たち復讐する機会を見逃してしまう事になるのだ。
「ボルドーの防衛戦に加わりたい」
あまりの驚きに目を見開いている受付嬢に追討ちをかけて話す。
順番を無視して相手をさせるには、誰もが順番を譲る気になる存在になればいい。
簡単な話しだ、教団が広めた悪名を利用すればいい。
エドゥアルと大声で名乗るだけで、冒険者ギルドのいる全員が注目してくれる。
現にあれだけ騒がしかった冒険者ギルドの受付が静寂に包まれている。
「こんな時にバカな冗談を言わないで」
どこの冒険者ギルドも、バカで女好きの冒険者にやる気を出させるために、美しい女性を受付に配置している。
最悪の場合、冒険者が死ぬ前に話した最後の女性になるのだから、美人を配置するくらいの配慮は当然なのかもしれない。
「冗談でも嘘でもない、このカードを確かめろ」
受付に群がっていた全ての冒険者たちが、俺が歩き出すと道を作った。
俺が本物のエドゥアルか受付嬢に確かめさせるためだろう。
だが、道は作ってくれたが、友好的な訳ではない。
俺の事を胡散臭そうに見ている奴もいれば、怒りを抑えている奴もいる。
だが、そんな連中など物の数ではないので無視して受付に行く。
「主任、この人は本当に勇者パーティーにいたエドゥアルさんです」
俺が差し出した冒険者カードを見て美しい受付嬢が主任に報告する。
怒りの籠った眼つきと口調は抑えられていないが、それでも口にしている言葉が罵りになっていないのは、この冒険者ギルドの教育なのだろうか。
「俺が相手をする。
アリアはマスターにエドゥアルが現れたと伝えてこい」
このギルドの職員レベルは高そうだ。
俺が重要度の高い存在だと言う事を、受付主任クラスが知っているのだから。
「おい、こら、でめぇえがエドゥアルか。
てめぇえのせいで、魔境が大暴走しそうになっているのだぞ。
責任取りやがれ、このクソガキが」
安っぽい鉄製部分鎧を装備した戦士が殴りかかってきた。
見るからに頭が悪そうな奴だ。
こういう手合いは勇者パーティーにいた時にもよく見かけた。
いつも新人を虐めている弱い者いじめが大好きなクソ野郎だろう。
俺を殴れることが楽しいのか、嗜虐的な表情を浮かべてやがる。
ギャッ、フッ。
俺はこんな程度の低い奴に殴らせてやるほどお人好しじゃない。
逆に顎先をかするように殴って、脳震盪が起こるようにしてやる。
こんな見掛け倒しの下級冒険者でも、モンスターの餌にすれば時間稼ぎになる。
それに、脳震盪を起こして糞尿を垂れ流す姿を、ここに集まった冒険者全員に見られたら、もう弱い者いじめなどできなくなるだろう。
「コノヤロー、ぶちころしてやる」
糞尿野郎の仲間と思われる戦士が、見せかけの大振りで斬りつけてきやがった。
これではとてもモンスターを相手に生き残れない。
こんな人を脅かすしか役に立たない戦い方が癖になっているのに、冒険者として生き残っている。
ギャッ、フッ。
戦闘能力のない人を脅して金を集めていたか、新人冒険者を殺して金や装備を奪っていたのだろうな。
罪の意識など最初からなかったが、それでも人を殴るには多少は覚悟がいる。
だが今回は何も思うことなく殴れた。
「こんな連中が冒険者ギルドの受付で偉そうにふんぞり返っているのか。
どうやらボルドーの冒険者ギルドは、町の人々や新人を食い物にして肥え太っているようだな」
「魔境を暴走させた奴がえらそうに、ぐぅっ」
「やっ、やめろ、く、くるな、ぎゃっ」
先にぶちのめした2人の仲間、恐喝や新人殺しで暮らしていたであろう、不良パーティーメンバーをぶちのめす。
残る2人は槍使いと斥候だったが、蟲以下の相手だった。
2人とも軽く顎を撫でて脳震盪にして、糞尿まみれにしてやった。
これでこのパーティーの異名は糞尿パーティーになるだろう。
「こいつらと一緒になって町の人を脅して食い物にしていた奴は出てこい。
もちろん、ダンジョンで新人を殺していた奴もだ」
受付に押し寄せていた冒険者の五分の一が真っ青な顔をしてやがる。
ギルド職員はまともだと思ったのだが、これほどの冒険者が外道だとすると、たまたま良識のあるギルド職員に当たっただけかもしれない。
五分の三の冒険者が目を逸らしたから、見て見ぬ振りをしていたのだろう。
眼をむいて驚いている残りの五分の一は何も知らなかったようだ。
「なにをしている、さっさとこいつを殺せ。
こいつは、エドゥアルは、人類の敵なのだぞ。
勇者様や召喚聖者の生まれ変わりであられるルイーズ様を裏切って、ゴッドドラゴンを怒らせた張本人なのだぞ」
いきなり現れた聖職者が俺を罵りだした。
いや、罵り出したというよりは、口封じのために殺害を命じたのだろう。
「「「「「デピュティ・マスター」」」」」
俺の言葉を聞いて顔面蒼白になっていたギルド職員と冒険者たちが、一斉に安堵の表情を浮かべて叫んだ。
こいつが冒険者ギルドの副マスターで、恐喝と新人殺しの黒幕のようだ。
「ほう、町の人々を恐喝していたのはデピュティ・マスターの命令だったか。
これは、冒険者ギルドが主導して罪を犯していたという事か。
それとも、ルイーズ教団が主導して罪を犯していたのか」
「だまれ、だまれ、だまれ、だまれ。
召喚聖者の生まれ変わりであるルイーズ様を裏切った背教徒を殺せ。
ボルドー冒険者ギルドのデピュティ・マスターとしての命令だ」
「ほう、自分の犯罪を隠蔽しようとして必死だな。
共犯者を使って俺を殺し、教団の悪行を隠蔽するつもりか。
だがな、ここには真っ当な職員や冒険者もいるのだぞ。
その全員を殺して隠蔽するつもりなのなら愚かすぎるぞ。
おい、お前ら、こいつらを殺さないとお前達が殺されるぞ」
真っ当なギルド職員と冒険者に危機感を持たせてやった。
嘘やハッタリではなく、まず間違いなく口封じに殺される人間が出てくる。
正直で善良な人間が殺されるのを見て見ぬ振りはできない。
いや、助けるだけなら黙って悪人を皆殺しにすればいい。
だがそれでは、正直で善良なだけの人間が知らずに共犯にさせられてしまう。
「犯罪者の言葉を信じるな。
元勇者パーティーのエドゥアルは、国から逮捕命令が出ているのだ。
捕獲すれば生死を問わず国と教団から報奨金が支払われる。
そして俺さまの権限で、今この場で冒険者ギルドから追放する。
もうエドゥアルには国民としても冒険者としても何の権利もない。
安心して殺して報奨金を手に入れろ」
俺の実力を見て動けなくなっていた連中の目に力が入った。
国と教団の後ろ盾があると言われて、実力差を忘れてしまうバカたちは、もう俺の実力を忘れて殺す気になってやがる。
事の真相を知っていて、教団の力を計算して見て見ぬふりをしていた、それなりに実力のある冒険者たちは、前と変わらず不参加を決めているようだ。
「おい、どうした、かかってこないのか、モンスター以下のクズども。
何の抵抗もできない町人や、味方だと思って背中を見せる新人を殺してきた、モンスターよりも卑怯で穢れたゴミクズども。
かかってこなければ、親兄弟や子供たちに、お前たちの悪行を知らせるぞ。
さっさと、これまで通り、仲間殺しで血塗れになった金で酒を飲み飯を喰らえや」
「「「「「ウォオオオオオ」」」」」
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