勇者パーティーにダンジョンで生贄にされました。これで上位神から押し付けられた、勇者の育成支援から解放される。

克全

第1話:生贄

 聖歴1216年1月1日:エドゥアル視点


「おい、こら、グズグズするな、ボケ、さっさと部屋に入りやがれ」


 出来損ないの勇者ガブリエルが上から目線で命令してくる。

 素直に命令に従うのではなく、他のサポーターたちに勇者パーティーの悪事を強く印象付けておいた方がいいだろう。


「ここは18階のボス部屋だろう。

 俺たちサポーターではなく、勇者パーティーが先に入るべきだろう」


「キィイイイイ、なに偉そうに口答えしているのよ、サポーターの分際で。

 同じ村の出身だというだけでサポーターに雇ってもらっているのでしょ。

 平民は言われた通りにしていればいのよ」


 いつも耳障りな甲高い声でキイキイと理不尽な命令を繰り返す、魔術師ギルド幹部の長女という特権階級のクロエが、今回も勇者の尻馬に乗ってわめく。


「本当にそんな事をしていいのか、ガブリエル。

 正義の勇者様が、哀れなサポーターを盾にして階層ボスを斃したと言われるぞ」


「フン、お前にそんな心配をされる必要はない、エドゥアル。

 全員死ねば、盾にしたのではなく、戦いの巻き添えになった事にできる。

『奮戦したが助けられなかった』と俺さま涙を流せば、それですむ。

 いや、ゴッドドラゴンを従魔にして帰れば、サポーターごときが何百人死のうと誰も何も気にしない。

 それに、最初からお前たちは階層ボスの生贄にするために集めたのだ」


 自分から悪事を証言するなんて、愚かすぎて罵る気にもならない。

 だがお陰で勇者パーティーの悪事を証言する人間を大量に確保できた。


「ホォオオオオ、ホッホッホッホ、その通りよ。

 お前たちには最初からゴッドドラゴンを呼び出すために集めた生贄よ。

 ルイーズ教団に残る聖書の記録に、1月1日にマンドリエ・シュル・メール・ダンジョン18階ボス部屋に、ゴッドドラゴンが現れるとあるのよ。

 そして300人の生贄を捧げればゴッドドラゴンを従魔にできるの。

 貴方たちは勇者のために死ねるのよ、感謝しなさい」


 信者の事など奴隷以下だと思っているルイーズ教団の神官ども、その中でも王のような立場の大神官の長女だけあって、他人の命はどうでもいいのだな。

 それくらい思い上がっていなければ、神として崇めているはずの、この世界を救ってくださった召喚勇者の名前を名乗ったりはできない。

 他人の命を虫けらのように扱う特権階級のクズどもめ。


 だがこれで、なぜ勇者と魔術師教団とルイーズ教団が、権力の限りを尽くして他の冒険者をマンドリエ・シュル・メール・ダンジョンから追い出したのかが分かる。

 あれほど短期間のレベルアップにこだわっていた、勇者パーティーとその後援者達が、経験値が分配されるにもかかわらず、300人ものサポーターを勇者パーティーに参加させたのかが分かった。


「生贄にされると分かっていて、俺達がそんな命令に従うと思っているのか、勇者ガブリエル、バカかお前は」


 他の連中を相手にしてもしかたがない、交渉すべきは勇者であるガブリエルだ。

 そしてガブリエルを怒らせて、直接手出しさせなければ俺の目的は達成できない。


「やかましいわ、猟師の子供のくせに俺さまに偉そうな口を利くな。

 さっさとボス部屋に入りやがれ、この、この、この、この」


 ガブリエルが本気で蹴っているが、全く何も感じない。

 圧倒的なレベル差と能力差があるから、蚊に止まられた程の感覚もない。

 そもそも、300人の生贄がいるのなら、俺をここで殺しては大問題なはずなのに、殺す気で蹴っていること自体がバカ過ぎる。


 いや、それ以前に、300人の生贄がいるのに、300人ちょうどしか人を集めていないのが愚かとしか言いようがない。

 まあ、ガブリエルとアーチュウはどうしようもないバカだし。

 支援している魔術師教会とルイーズ教団は金に汚いから、余裕を持って生贄の人数を集めるはずもないか。


「クロエ、ルイーズ、てめえらが集めてきた生贄を、責任もってボス部屋に入れろ。

 これはこいつをボス部屋に蹴り入れてやる。

 この、この、この、この、さっさと入りやがれ、この、この、この、この」


 全く痛みがないと言っても、クズ勇者に蹴られ続けるのは腹が立つ。

 早く無理矢理押し付けられた役目から解放させてもらおうか。


「キィイイイイ、さっさとボス部屋に入るのよ、奴隷ども。

 入らないと闇魔法でゾンビにしてからボス部屋に入れるわよ」


 クロエのやつ、何かと言え闇魔術を使おうとする。

 勇者パーティーの魔術師ではなく、魔王に仕える悪の魔術師としか思えないな。


「ホォオオオオ、ホッホッホッホ、召喚勇者神ルイーズ様の生まれ変わりである、わたくし、大聖女ルイーズが愚かで下賤な信徒たちに命じます。

 ボス部屋に入りなさい」


 どいつもこいつも、諦めが早すぎるぞ、それでも人間か。

 勇者パーティーで役に立てば奴隷から解放するという、国と魔術師協会とルイーズ教団の嘘を信じていたから、裏切られて生きる希望を失ったのだろうが、もう少し生への執着を見せろよ、情けなさ過ぎるぞ。

 3つの組織が腐敗しきっている事くらい、この国で生きてきたのなら知っているはずなのに、何を期待していたのだ。


「チッ、アーチュウ、蹴るのを手伝え」


「はい、おでもエドゥアルを蹴ってボス部屋に入れる」


 ドッーン


 物心ついてからずっとガブリエルの盾役をさせられている、木こりの息子アーチュウはレベル18にしては筋力がとても強い。

 恵まれた骨格と身長で、大熊と取っ組み合いをしても勝てそうだ。

 そんなアーチュウが全力で蹴れば、俺が逆らわなければ吹き飛んでしまう。

 そのままボス部屋の扉を、蹴り飛ばされた勢いで開けて中に入れば全て完了だ。


「テメーラ、何をグズグズしていやがる。

 クロエとルイーズに言われた通りボス部屋に入りやがれ、ゴミ共が」


 あ、俺をアーチュウと2人でボス部屋に蹴り入れただけでは気持ちがおさまらず、表向きサポーターだった奴隷たちまでボス部屋に蹴り入れている。

 俺1人だけでなく、300人ものパーティー仲間を自分の手で生贄にした。

 これは相当カルマ、業が悪に染まったよな。

 神に勇者として選ばれた人間が悪に染まったらどうなのだろう、楽しみだ。


ゴォオオオオ!


 1月1日に現れる特別なボスがお出ましになるようだな。

 ルイーズが口にした事が正しいとしたら、ゴッドドラゴンが現れるという。

 この世界の神にはろくな奴がいなかったから、まともな奴なはずがない。

 だが、まあ、それでも、神と言われるくらいだから相当強いのだろう。

 生贄を捧げない状態で従魔にする事ができるのだろうか?

 いや、その前に俺自身のステータスを確認しておこう。

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