可愛すぎるイトコと僕の平凡な日常物語

迫山ゆいね

第1話 ー入学式ー

 桜の花びらを両手で挟むと願い事が叶うと聞いたことがある。

 一生懸命、桜の木を見上げている一人の少女に視線が集まっていた。僕はその子に手を振り名前を呼んだ。

「愛理」

 視線を桜から僕に移すと、徐々にその表情は固くなった。……いや、強張った。

「なんで今、話しかけるの?」

 どうやら、桜の花びらを掴むのに良いタイミングを見計らっていた『愛理』は、絶好のチャンスを僕のせいで逃したらしい。

 ごめんと平謝りしている僕の横を通り過ぎる新入生たち。必ずほんの束の間、足を止めるんだ。そして愛理を一瞥する。頬を桜色に染めたあとは僕と目が合い歩き出す。

 そういう男を何人見たか。

 ソレに飽きた頃、僕たちも高校の門を揃ってくぐった。

 クラス分けの表の前に立つと、僕の名前を小声で愛理は発した。

「いや、先に自分のを探せよ」

「もうあったから。ここに勇斗のもあればいいのになって」

 僕の名前は愛理に託した。

 だから僕は違う名前を探し始めた。

 そう、あの名前……

「あ。あった! 勇斗の前にあの子の名前」

「え?」

「わたしと同じクラスだ。珠世ちゃん」

 愛理が指を差した方向に目を向けた。すると『大林珠世』の名前が書かれていた。

 小学二年からずっと好きで、四年間も片思いしていた子。小六の時に振られはしたが、諦められなかった子。

 まさか愛理と同じ高校を受験してるとは思わず、知ったあとに僕は志望校をギリギリで変えた。

「ぼ、僕の名前は……?」

「…………あった。良かったね、勇斗。ほら」

「ホント……だ。あった! 同じクラスだ!」

 やった! と大きな声で愛理の手を取った。小躍りもした。

 どうやら、それがマズかったらしい。

 そこら中にいた生徒の注目の的になり『付き合ってる二人』から『イトコ』という認識になるまで相当の時間がかかった。

 同じ中学の珠世ちゃんは知ってるはずなのに、弁解の時に手助けも何もなく、あぁ僕って眼中にないんだなと落ち込んだことは言うまでもない。

 まぁ、まだそれは後の話。

 小躍りしてる今の僕は、そんな噂の的になることさえわかってないんだから。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る