6 ウィルくん大学生になる?
「目標をセンターに入れてスイッチ、目標をセンターに入れてスイッチ」
8歳になった俺だが、某汎用人型決戦兵器のパイロットになったわけではない。
我がグランツ
ここには工場で作った武器の試射を行うための射撃場があるが、並行して使用人たちの訓練場にもなっている。
我が家の使用人たちは元軍人だが、銃も撃たずにいれば腕が錆びついてしまう。
武器の試験場であることをカモフラージュに、使用人たちが銃の訓練も行っている。
というわけで、ビリー教官に鍛えられている俺も、射撃場でレーザーライフルの訓練に入った。
「目標をセンターに入れてスイッチ」
まだ訓練が始まったばかりなので、1発1発慎重に狙いを定めて撃っていく。
光るレーザーを見ると、某星間戦争映画の兵士になった気分になる。
例のフォースセイバーを使えば、レーザーライフルの弾を弾くこともできるそうで、ますます映画の世界を想像してしまう。
もっともフォースセイバーでレーザーを弾けなければ、体に穴が開くことになる。
間違っても、面白半分でやっていいことではない。
そして陸軍の歩兵は、パワードアーマーを着て戦う。
迷彩色が用いられるので、青と白のカラーリングではない。
これは兵士用の装備なので、子供向けサイズはないが、今回特注で俺専用のパワードアーマーを用意してもらった。
レーザーを撃つので安全のためにと、両親がわざわざ作ってくれたものだ。
なお、製造元はうちの工場で、出費は原材料費だけで済んでいる。
相変わらず、グランツ家が恐ろしすぎる。
子供用の武装を特注でポンと作るとか、このファミリーは相変わらず闇が深い。
「いいですか坊ちゃん。
レーザーは反動がなく、目標に命中させやすいですが、半面雨や砂煙があると使い物にならなくなります。
天気が悪い時には実弾のライフルを使うので、あとでそっちも練習しましょう」
教官であるビリーも、ノリノリでレーザーと実弾、両方のライフルの扱い方を教えてくれる。
マジで、グランツ家って何なの!?
俺が教えてくれと頼んだので言えたことではないが、レーザーや実弾銃を8歳の子供に撃たせて、それで平気な顔をしている両親の頭は大丈夫だろうか?
気になって、食事の時にそのことを聞いたことがある。
「安心なさい。私有地内であれば、子供が武器を所持していても問題に問われることはない。
あれはあくまでも、我が家で生産している武器の試射実験だからね」
法律的に問題ないというのは、おとん。
「ウィルが強い男になるためだからいいのよ。でも、怪我はしないようにね」
おかんもそんな答えだ。
でも、銃火器での怪我って、割と命にかかわりそうな気がするのだが……まあ、深くは追及すまい。
とまあ、俺の物理面での強化は、こんな感じで日々進んでいる。
一方知的な面に関してだが、俺は8歳にして大学入りした。
ただし。
「大学だと?
あんな役に立たん所に行く必要などない。時間の無駄だ。
それよりワシの研究の手伝いをした方が、ウィルの将来の役に立つぞ」
爺さんは、俺の大学入りに猛反対。
「父さん、ウィルはグランツ家の跡取りです。
世間体というものがあるんです。
ウィル、頼むから大学はきちんと出てくれ」
一方のおとんはそんなことを言って、爺さんに反論した。
おとんは天才過ぎる爺さんのせいで、昔からしなくていい苦労をしている
当人はかなり優秀なのだが、周囲から爺さんと比較されて、劣っているとの烙印を押されている。
自身も、爺さんに対して持たなくていい劣等感を持っていて、おとんは爺さんの事が苦手なようだ。
「俺、大学には行きたいなー」
とはいえ、俺はおとんの考えに賛同。
例えどれだけ頭が良かったとしても、学歴というものは生涯付いて回る武器だ。
将来がどう転ぶか不明だが、世間的には大学を出ておいた方が何かと都合がいい。
例えば軍隊に入隊するようなことがあっても、学歴が高い方が扱いが良くなる。
工業系の学校を出ていれば整備士方面に進めるし、大卒ならば頭脳が必要になる事務や補給方面に配属される可能性が高くなる。
あるいは、大卒は士官教育課程に進むことができ、少尉以上の階級になることが可能。
さらに大学院で修士課程まで卒業すれば、軍の上級士官教育課程に進むことだってできる。
上級士官教育を修了すると、大尉以上の階級が約束され、将来的には将官クラスが夢じゃない。
もちろん、軍隊以外の一般社会でも、高学歴は様々な面で優遇される。
あるいは地方の名士であるグランツ家の人間として、大学程度は出ておかないと、周囲から笑い者にされてしまう。
仮に、あの駄女神のせいで将来戦場に立つ運命にあるとしても、大卒の学歴はあった方がいいのだ。
爺さんとおとんの間でやり取りがあった結果、最終的に爺さんが折れてくれた。
「よかろう、ウィルの大学入りは認めてやる。
ただし大学に通う必要なない。
理事長と教授どもには、ワシから話を付けておく」
折れたのだが、折れ方がおかしい。
このジジイ、もしかしてボケておかしくなったのかと、その時の俺は思った。
だが、後日グランツ家の応接室に、大学の理事長と教授が揃ってやってきた。
爺さんの方が出向くのでなく、逆に屋敷に呼びつけやがった。
なお、俺たちの住んでいるアンシェンの街は地方都市だが、この街には大学と大学院があり、そこに勤めている人たちだ。
やってきた2人は低姿勢で、ソファーにふんぞり返っている爺さんのことを「大先生」と呼び、終始ペコペコと頭を下げる始末。
「大学には毎年寄付を出しているが、今年度からはさらに額を増やしておこう」
「大先生、ありがとうございます!」
理事長の方は、金であっさり陥落してしまう。
ナニコレ、裏口入学とかそういう感じの話になってないか?
「ウィルくん、君が羨ましすぎる。大先生の研究を手伝えるなど、私も機会があれば参加したいのに」
教授の方に至っては、なぜか俺の事を羨ましそうに見てくる。
爺さん、大学の教授レベルでも仰ぎ見るほどの、マジものの天才らしい。
俺は爺さんの研究助手をさせられていて、爺さんが凄いことを理解しているつもりだった。
だが俺が思う以上に、爺さんは大物のようだ。
そんなやり取りの後、俺は大学に通う必要はなく、毎年論文だけ提出すればいいという扱いになった。
「いいのか、これで?」
と、思うのだが、その後も地下の研究所で、爺さんの助手を続けてくことになった。
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