航空機動歩兵は戦場の空を征く(仮題)

エディ

プロローグ

プロローグ 俺氏、痴女駄女神に遭遇する

「私は戦女神ヴァルキリー、あなたにはエインヘリアル見習いとしての素質があります」



 悲報、俺氏ソシャゲのガチャで、カード限度額まで使い切って借金を作った挙句、正気を失って現実逃避中。


 現実逃避している俺の前には、ビキニアーマーにフリルが付いた格好の痴女がいる。

 オッパイは結構でかい。


 F-90くらいかな?

 91には、ギリギリ届きそうにない。


 ヌフフッ……はあっ、借金どうしよう。


 眼福な妄想だけど、現実でこしらえた借金問題が重すぎる。

 返済できる気が全くしない。



「ちょっとあなた、誰が痴女ですか!私は戦女神ヴァルキリーですよ」


「いや、その恰好で戦女神とか言われてもねぇ」


 妄想の痴女に話しかける俺もどうかしているが、こんなのが戦女神だとしたら、世の中色々と終わっている。


「世の中は終わっていません。ただ、時代が悪いのです。

 昔の戦では剣や槍が用いられ、多くの者たちが私を崇めていました。

 それが今では無残にも……クッ、たかが鉄の大砲ごときが戦場の女神などと崇められ、年々私の扱いが悪くなっていく」


「鉄の大砲……ああ、野戦砲のことね」


 ライフルの銃口から聖剣が放たれ、カノンから帝国が生まれる。

 野戦砲は、戦場の神。


 そんなことを、どこぞの共産主義者が宣ったとかなんとか。

 共産主義者と言っても、結局は中二病ぽいセリフから逃れられない運命にあるんだな。


 いや、こんなこと考えているのがバレて消されたくないので、今のはオフレコで頼む。



 ジー。

 なんて考えていたら、目の前の痴女が俺を見てくる。



「なんでしょうか、痴女さん?」


「痴女ではありません。何度も戦女神ヴァルキリーと言って……」


「はいはい、”ヴァルさん”ですね」


「その呼び方はやめなさい。害虫駆除剤の商品名に聞こえます」


 この痴女、いちいち注文が多いな。


「はいはい、分かりました。それじゃあ自称女神様、なんでしょうか?」


「……まあ、いいでしょう。バカにされているようで腹が立ちますが、これ以上私の名前で問答しても時間の無駄ですから」


「そうっすねー」


「……」


 痴女に睨まれた。

 ちょっとだけ心臓にドキッと来てしまったのは、気のせいだと思いたい。

 俺は露出癖のある美女に睨まれて喜ぶような性癖は……もしかして、今まで気づいてなかっただけで、そんなのが好きだったのか!?


 ――ゴンッ


「いてーっ」


 なんて考えてたら、半眼で睨んでくる痴女に拳骨された。



「これから海に沈めてあげましょうか?」


「勘弁してください。妄想の中でも沈みたくないです」


 海に沈められた拍子に、現実リアルの俺がおねしょなんてなったら悲惨すぎる。

 30過ぎのいいオッサンなんだぞ。


「だったら、変なことは考えないように」


「はーい」


 妄想の中だからか、痴女には俺の考えていることが筒抜けらしい。

 これ以上拳骨されたくないので、大人しくするか。



 だけど、


「ところで自称女神様は、なんでそんな恰好をしてるんっすか?」


「年々私を信奉する信徒たちが減っているので、こうやってアイドル活動をして、なんとか信者が減らないように頑張っているのです」


 そんなこと言って、マイクを取り出して突然歌って踊り始める痴女女神。


 俺、借金作ったせいで、相当頭がおかしくなってるのかな?

 返せる当てのない額だから、マジでヤバいかも。

 こんな妄想してる時点で、いろいろと終わってる。


 自分自身に大絶望だ。


 そんなこと考えている間に、痴女女神様のライブ(?)が終わった。


「拍手をなさい」


 ――パチパチパチ


 この場には痴女女神と俺しかいない。

 仕方ないので、要求通り拍手をしてやる。


「こうしてアイドル活動をすることで、信者たちを集めているのです」


「そ、そうですか」


 どう見ても、ただの売れないアイドルにしか見えない。

 もしくは、一時期は再生数を稼いだ人気ユーチューバーだったものの、再生数が落ちていき、何とか状況を打開しようとした挙句、おかしな方向に迷走していき、どんどんファンを減らしている感がある。


「……私も迷走している自覚はあるので、指摘するのはやめてもらえませんか」


「自分でも気づいてるんだ」


 この痴女女神、マジでダメダメだな。

 痴女なだけでなく、駄女神だ。



 いたたまれなくなって、生暖かい目で駄女神を見てしまう。


「うううっ、かつては戦女神と崇められたのに、それなのに、それなのに。うう、ウエーン」


 ああ、とうとう泣き出してしまった。


「ほら、落ち着いて。ここにティッシュがあるから、これで鼻をかんで」


「ウ、ウワーン」


 その後無様に泣く駄女神を、なんとか宥めすかす。


 はあっ。

 てか、ここは俺の妄想なのに、一体何をやってるんだ。


 むしろ泣きたいのは俺の方だ。

 返せない借金作って、この先どうしよう。


 グスンッ。



「ふうっ、ようやく落ち着きました。ところで、あなたには大事な話があります」


「そうですか。分かります、借金のことですね」


「違います」


 えっ、今の俺に大事なことって、借金の返済しかないんだけど!?


「あなたはここが妄想の中だと勘違いしているようですが、ここは神界です」


「お、おうっ、そうですか」


 駄女神様がキリリと宣った。

 キリリとしても、フリル付きビキニアーマーを着た痴女であることに変わりない。

 まったく威厳を感じない。



「あなたの現世リアルの体ですが、日ごろからの不摂生がたたって、心臓発作で気絶しています。

 神界では時間が経過することはありませんが、現実に戻れば、あなたは身動きもできないまま、あと数秒で死ぬことになります」


「はい、なんですと?心臓発作?死ぬ?誰が?」


「あなたです」


 駄女神に指さされてしまう俺。

 そして俺も、自分の顔に向けて指をさす。


「そうです。あなたはもうすぐ心臓発作で、あの世行きです」


「な、なんだってー!」


 そんなバカな?

 日頃の不摂生だと?


 よく考えてみよう。

 会社から帰るとジャンクフード食べながら、テレビアニメをチラ見しつつ、ゲームを夜遅くまでしている生活。

 そんな生活を、もうかれこれ10年ぐらい続けている。


 昼に食べに行くのも、油たっぷりのファーストフード店がメインで、野菜なんて滅多に食べない。


 そういえば最近は息切れすることが多くなり、立ち眩みを覚えることもよくある。


 糖質と油物を食べまくっても、太る体質でなかったので油断していた。



「心当たりが多すぎる」


「そうです。というわけで、あなたの余命はもう数秒しか残っていません」


「ナンテコッタ!?」


 自覚がありすぎて、駄女神さまからの指摘に危機感を覚えてしまう。


「てか、これって本当に俺の妄想じゃないの?」


「残念ながら、妄想ではありません。

 戦女神である私が、あなたの魂を神界に連れてきたから、ここにいるのです」


「はあ、なるほど」


 もうすぐ死ぬ俺の魂が神界にいる。

 ……ん?てことは、もしかしてラノベでよくある、死後に駄女神に遭遇して、異世界転生するとかなんとかって展開なのか?


「あら、私が説明しなくても察するとは感心です」


「いやー、それほどでも。てか、本当に異世界転生ってあるんですね。

 てっきりラノベの作り話だと思ってました」


「そう考えても仕方のないことです。

 ただ、注意しておかなければならないことがあります」


「転生前の注意点ですか。何ですか?」


 異世界転生できると知って、さっきまでの気分が吹っ飛んだ。

 よし、このままソシャゲで作った借金から逃げ切ることができる。

 なんてラッキーな展開だ。


 死亡保険には入っているので、借金の後始末も何とかなるだろう。たぶん。



「先ほどから言っているように、私は戦女神です。

 あなたを異世界に転生させるのは、あなたがエインヘリアル見習いとしての素質を持っているからです」


 エインヘリアルと言えば、北欧神話においては死せる勇者が、死んだ後も神の世界で永遠に戦い続けるという話がある。


 ……死んだ後も永遠に戦うだと!?


「本当に、あなたは察しが良くて助かります。

 私が転生させる世界では、私たちアース神族と敵対している、別の神族の眷属がいます。

 その世界では我々神が直接対峙することができないので、互いに眷属を呼び出して、代理で戦争をさせています。

 あなたには、私の眷属であるエインヘリアル見習いとなって、その世界での戦いに参加してもらいます。

 可能であれば、敵対する神の眷属を世界から打ち払うのです」


「ごめんなさい。そういう戦い万歳な世界はご遠慮……」


「なお、断ればあなたの魂は現実に戻って、2、3秒後に死にます。

 神の願いに逆らって死んだ魂が、その後どのような地獄に行くか、今から教えてあげましょうか?」


 そこでニコリと笑う痴女女神だが、目がマジになっていた。

 いかん、今まで散々舐め腐って痴女駄女神扱いしていたが、マジものの戦女神の目をされて、俺の全身がブルブルと震えてしまう。


 こ、こんな痴女なんて、こ、怖くなんて……怖えーよ!



「ワ、ワカリマシタ。女神様ノ願イ通リ、異世界転生シタイデス」


「それは良かった。私も、面倒な説得をせずに済んで助かります」


 ニコリと笑う駄女神様だけど、見た目の格好に反して怖すぎるわ!

 あまりに怖くて、片言でしかしゃべれなかった。



「と、ところで聞きたいことがあります」


「何でしょうか?」


「さっきからエインヘリアル見習いって言ってますけど、なぜに見習い?」


 だって、見習いなんて付いてたら、メチャクチャ格好悪い。

 なんで、俺には見習いって付くんだよ!?


「あなたはゲームでの戦いには慣れていますが、本物の戦いをしたことがないからです」


「本物の戦いって……やっぱり俺が転生する世界って、マジものの戦いがあるんだ」


「そうです。

 もちろん、日本人がよく知っている、剣と魔法が存在するファンタジー世界……」


「そこはド定番なんだ」


 異世界ファンタジーか。

 よし、その世界で早急にステータスを上げて、魔法の勉強し、戦争でも何が起きてもいいようにしておこう。

 可能であれば、そのままレッツチートコースだ。


 なお、チーレムする予定はない。

 俺は独身主義で、女の子にちやほやされるくらいなら構わないが、結婚はノーサンキューだ。


 俺は家族でなく、自分の趣味のために時間を使う男だからな。

 趣味人なのだ。



「……昔は剣と魔法のファンタジーだったのですが、残酷にも時代が進んだせいで、今では多脚戦車の砲弾やレーザーライフルが飛び交う世界と化しています」


「は、はいいっ!?」


 なんですか、それっ!?

 第二次大戦とかぶっ飛ばして、レーザーライフルってどういうこと!?

 それに多脚戦車って、もしかしてあれか。タチコ○タンがいる世界なのか!?


「あの世界では、多脚戦車の野郎があろうことにも戦女神の座を奪い取って、戦場のアイドルマスコット神扱いされていて……

 私の眷属よ。あの世界にいる多脚戦車を決して信じてはいけません。

 奴らは、この私から戦女神の信仰を奪う敵なのです!」


「いや、ただの私怨でしょう!」


 多脚戦車に嫉妬する戦女神とか、なんて醜い。

 この駄女神、売れないまま迷走して、おかしくなっていってるアイドルと同じだ。


「コホン。とにかくあなたは、向こうの世界で我らアース神族に敵対する神の眷属と戦いなさい。

 早速、向こうの世界に送ります」


「エエーッ、イヤだー!

 多脚戦車にレーザーって、完全に俺の手に負えない世界だろ。

 連れて行くなら、神エイマーにしとけ。

 自慢じゃないが、俺のFPSでのエイム力は……」


 ライフルのある世界なんて、FPSゲーのトッププレーヤーが行く世界だろ。

 間違っても、俺なんかが行っていい世界じゃない!



 駄女神に文句を言いたいが、残念なことに俺の意識はそこでぶつりと途切れてしまう。

 意識がなくなっては、もはや駄女神に何も叫び返すことができない。

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