思わぬ再会③

 跨線橋こせんきょうを渡って反対ホームに向かう。先ほど桐生きりゅう方面に向かう列車が発車した場所。ホームを挟んでその向かい側に列車が止まっていた。正確には置かれているが正しいだろうか。運転台もなければ架線も通っていないこの場所で、この子が動き出すことは二度とないのだから。


 クリーム色の地にクリムゾンレッドのラインが窓枠を囲うように引かれている。なんともレトロチックなカラーリング。ちょっと可愛いかも。


 この列車は現在レストランとして使われている。列車のレストラン。かつて東武日光線で特急として使用されていた1720型をレストランとして転用したものである。


 そう、私の今日最大の目的はここなのだ。食券を買って、いざレッツゴー。


 車内はほぼ当時のままの内装が残されていると聞く。椅子を回転させてボックスシートが並ぶような構造になっていて、向かい合った座席の間にテーブルが置かれている。天井の蛍光灯、角張った窓枠、遮光用のカーテン、鉄格子のような網棚、ヘッドレストのないベージュ色の座席。


 どこを切り取っても昭和レトロな雰囲気がぷんぷん漂っていた。私、昭和知らないけど。生まれてないし。


 だけど、心が落ち着く。ノスタルジックな感傷。かつて多くのお客さんを乗せて走り続けていた列車の第2の人生、いや列車生といったところか。引退してもなお愛されて、この子はきっと幸せだ。


 さて、折角だ。ご飯をいただこう。


 私が注文したのは、やまと豚弁当。え? 駅弁じゃないかって? その通り。駅弁だ。


 だったら、こんなところで食べずに移動する列車の中で食べれば良いのに。そんな風に思う人もいるだろう。が、しかし、私は店内で食べることにこだわりたいのだ。


 実はここ、駅弁であっても注文してから作ってくれる。ホカホカの出来立てがいただけるのだ。更に、店内でいただくとお味噌汁がついてくる。こういった細かいサービスが現地で食べてみようと思わせるのだ。空間的なアドバンテージだけに頼らないのが高評価。


 いやいや、御託は良いのだ。早速ありつこうではないか。


「いただきます」


 蓋を開けると特製のやまと豚がこれでもかとご飯の上に敷き詰められていた。やまと豚は日本を代表するブランド豚で、ここ群馬県もやまと豚の産地の1つ。まさに地産地消。だからこそ、贅沢かつふんだんな味わい方が可能なのだ。


 ではでは、一口。ごはんと一緒にいただきます。


 ……うん。


 美味しい。しょうゆベースのお肉はあっさりとしていてくどさがない。追い打ちをかけるように乗せられたおろしソースの力でさっぱりとした味わいだ。


 きめの細かい赤身は柔らかく、噛みしめるたびに甘味と旨味が滲み出てくる。鼻腔を抜ける甘い風味と爽やかに残る後味は思わずご飯を放り込む手を緩ませない。


 しかも、このお米がまた良い。つやつやだ。粒が立っている。ホカホカで温かい。流石、注文してから作っているだけある。普通に駅の売店で買った駅弁とは比べ物にならない。


 お味噌汁はどうだろう。一口、ずずっと。おお、優しい味。塩味が強くなくて飲みやすい。具は地のものだろうか。お野菜がたっぷり入っている。お肉との相性もバツグンだ。


 では、続いて付け合わせのお新香を。パクリ。おっ、これは味が効いている。酸味と塩味がガツンとパンチ。すかさず、お肉とご飯を頬張った。うーん、ベストマッチ。お肉の爽やかさがより際立った。侮れないラインナップですな、こりゃ。


 そこからはもう三角食いだった。お肉とご飯、お味噌汁、お新香の3連コラボ。これが無限ループ。気付けば、あっという間に完食してしまっていた。最後に付け合わせのふかし芋をいただいて終了。甘味が優しくてお口直しにぴったりだ。ラインナップが最強すぎる。


「ごちそうさまでした」


 あっという間に完食。うん、とても満足だ。


 ああ、そうそう。やまと豚弁当には特製の手ぬぐいがついてくるのだ。トロッコわたらせ渓谷号がプリントされた一品は、本日の戦利品ということでお持ち帰りさせていただこう。


 ようこそ、我がコレクションへ。

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