紗江ちゃんと照くんのさえてる事件簿

空本 青大

紗江ちゃんと照くん

「犯人はあなたです!」

「え?」

目の前にいるおじさんに人差し指で指差し高らかに明言する女子校生。

彼女は紗江さえちゃん。

SNSで話題沸騰中の女子校生探偵だ。

顔がいいことと裏表のないさっぱりした性格がうけて、

若者を中心に人気を博している。

だが紗江ちゃんの幼馴染であり、助手をしている僕としては頭を悩ます存在である。

なぜなら・・

「はいストップ紗江ちゃん!ちょっとお待ちを・・」

「モガモガ!」

紗江ちゃんの口を押え、部屋の外へと引き連れ出す。

「なにすんの照くん!これからがショータイムってときに!!」

「それはこっちのセリフだよ!まさかとは思うけどあの人が犯人って根拠は?」

フフフと不敵な笑みを浮かべる紗江ちゃんは、眩しい笑顔で僕に言葉を放つ。

「勘よ!!!!!」

「・・・・・・・おふぅ」

・・そうこの巷で人気の女子高生探偵は第六感だけで犯人を見つけてしまうのだ。

正直紗江ちゃんはバ・・頭が決してよろしくない。

だけどすこぶる勘だけはいい。

テストの選択問題はまず外さないし、天気も言い当ててしまう。

たった今犯人と断言した人も犯人であることは間違えないだろう。

でもあくまでも勘。

犯人である証拠も動機もないまま捕まえることなんてできない。

紗江ちゃんの頭では到底状況を整理して順序立てて考えることなんて無理な話。

そこで僕の出番というわけだ。

自分で言うのもあれだが頭は割といいほうだ。

自身の頭脳を駆使して犯人が犯人である論理的筋道を見つけるのが僕の仕事。

はっきりいって助手のほうが労働コストが高い気がするが、

そこはまあ考えないようにしよう・・。


「さきほどは失礼しました」

「どうゆうことかね?」

部屋に戻り、犯人のおじさんにまずは説明を始めた。

「探偵のあの子が先走ってしまったというそういうわけだね」

「はい、よくやっちゃうんです。誠に申し訳ございません」

僕は深々と頭を下げ謝罪をするが当然これはフェイクだ。

犯人であることはわかっているので証拠集めのために

相手に近づいているに過ぎない。

同情するふりをして話を聞くことにしよう。

「話を整理しますとお母様の宝石が何者かに盗まれ行方知れずというわけなんですよね?

「ああ、そうだ。私は母の勘違いだと思うのだがね。そそっかしいところがあるし」

今回の依頼はこの犯人の母親からだ。

紗江ちゃんのお母さんの友達ということもあり引き受けることになった。

盗まれたものは小さな宝石ばかり。

小さいとはいえそれなりの値段になるものが多い。

最初は警察を呼ぼうとしたのだが、息子であるこのおじさんに、

そこまですることはないと止められたのだとか。

ここのお家は中々のお金持ちであるためそこまで気に留めるほどではないと、

おじさんは言うが、母親はやはり放っておくことはできないということで

我々の出番というわけだ。

「はぁ・・お袋は大げさなんだよなぁ」

そう語る犯人の服にある違和感を感じる。

「なんかついてますね」

「ああ、猫の毛だな。ここらへんの地域猫の世話をしているんだ」

なるほどと話を聞いている最中、後ろからお菓子を貪りソファでくつろぐ紗江ちゃん

から話しかけられ、後ろを向く。

「照くん!外で聞き込みよ!」

突然の提案に何事かと思ったが、おそらくまた第六感的なものが働いたのだろう。

僕は紗江ちゃんを信じ、犯人に事情を話し一旦外へ出ることにした。

「おお~ネコちゃんいっぱいだぁ♪」

依頼者の家の近くにある公園に行くとこの地域一帯で飼われているいわゆる地域猫が数匹たむろっていた。

そこにはお世話をしているおばさんがいたので話を聞いてみることにした。

「ええそうよ。よくあそこのお宅の息子さんがお世話してくれるわねぇ」

「へぇそうなんですね。そんなに猫が好きなんですか?」

「よく猫カフェってところに通っているらしいわね」

「その場所教えていただけますか?」


早速教えてもらった猫カフェに到着した僕たちが入ろうとしたとき、中からお客さんが中から出てきた。

「楽しかったなぁ」

「ほんとねぇ。一時期ここの経営危なかったって聞いたけど持ち直したみたいでよかった~」

カップルの話をそれとなく耳に入れた僕は紗江ちゃんと一緒に猫カフェに入店。

ちょうど中にはお客はおらず早速店長さんに話を聞くことにした。

「ここにはよくこの方は来られるんですか?」

僕は事情を話し依頼者から借りた犯人の写真を店長さんに見せる。

「そうですね。常連さんでよく来店されます」

話を聞いているときお店の中に”保護猫”と書かれた猫たちの写真が飾られているのが見える。

「ここの子達は保護猫なんですね」

「ええ、そうですね。ここにいるのは行き場所を失った子達なんです」

「話は変わるのですが、失礼ながらこのお店潰れそうになったのだとか?」

「ええ、そうなんですよ。でも応援してくださる皆さんのおかげで持ち直しました」

こう店長さんが話をしたところで紗江ちゃんが僕に話しかけてきた。

「照くん!行こう!」

そういうと僕の襟をつかみ強引に外に引き釣り出す。

出る間際、急ぎ早に料金を払いお礼を述べておいた。

「どうしたの紗江ちゃん?」

「あの人怪しいわ!犯人の次に!」

ゴホゴホと咳をしながら紗江ちゃんのいつもの直観推理を聞く。

なんとなく頭の中でつながってきたな・・。

僕は気になる点を整理するためにペットショップを何店か周った。

こうして確信を得た僕は紗江ちゃんと共に事件の解決へと向かう―


3日後、再び依頼者の家へと僕たちは訪れていた。

「犯人が分かったのかね?」

そう語る紗江ちゃんに犯人認定されたおじさんに僕は語る。

「はい、やっぱりあなたが犯人でした」

言葉を向けられ明らかに動揺する犯人。

「本気で言っているのか?」

「ええ、今からその証拠をお話しさせていただきます」

ごほんと咳をひとつして僕は静かに話し始める。

「僕はペットショップで聞き込みをしたとき、あなたがあるものを購入したのを

 突き止めました。”うみゃ~る”と猫用GPSです」

”うみゃ~る”は猫のおやつでトロっとした液体状の食べ物だ。

「なぜ猫を飼っているわけでもないあなたが買う必要あったのでしょうか?」

「それは地域猫のためにだな・・」

「うみゃ~るはともかくGPSは必要ないのでは?」

ぐっと言葉が詰まる犯人。

「病気になる子もいるから一応のためつけるんだよ!

 そもそもそんなものは証拠にならん!」

怒りをあらわにした犯人に対し、僕は淡々と話を続ける。

「あなたはうちゅ~るを塗った宝石を地域猫に与えGPSを取り付けた。そして猫カフェの店長さんに猫ごと回収させる。そして糞と共に出てきた宝石はお店の経営にあてていたのではないですか?」

「そ、それは憶測だろう?」

「先日知り合いの刑事さんにお店の捜査をお願いしたんです。そしたら宝石が何点か見つかりました。店長さんのスマホにも猫のGPSを感知するアプリが入っていましたよ。店長さんは観念していろいろお話してくれました。もう言い逃れはできませんよ?」

そう話すと犯人はガクッと膝が曲がりへたり込んでしまった。

「あのお店のために犯行に及んだのはわかるのですが、なんでこんな回りくどいことを?普通に支援すれば良かったのでは?」

すると犯人は声を震わせながら語り始めた。

「昔から猫を飼いたいといっても家族は耳を貸してくれなかった・・。

 ただ母親に対する復讐のために盗んだのさ」

そう語る犯人の話に割り込むように紗江ちゃんが声を張り上げた。

「猫ちゃんを想うなら宝石を飲み込ますんじゃないよ!それに家族に迷惑かけちゃダメでしょーが!」

「うぅおっしゃるとおりで・・。」

こうして今回の事件は無事解決した。

最後はいつも美味しいとこもってくんだよなぁ・・。

「さあて照くん!明日もきっと事件で忙しいぞ!」

「それももしかして?」

「勘よ!!!!!」





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紗江ちゃんと照くんのさえてる事件簿 空本 青大 @Soramoto_Aohiro

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