貴方の第六感はどこから?

蓮宗

第1話

第六感、体感したことがない人も言葉は聞いたことがあるだろう。五感である「視覚」「聴覚」「触覚」「味覚」「嗅覚」以外で感知する能力と言われているが、一体どこで感知しているのだろうか?


昨年の冬、こんなことがあった。


私の通勤路には城跡があり、城をぐるっと囲むように道がある。北には梅と紫陽花、城跡内には木蓮、八重桜、十月桜、枝垂桜、南には早咲きの桜と花が多く、目を楽しませてくれる。仕事が終わり家へと車を走らせていると、視界に桜の木が見えた。先程出てきた早咲きの桜だ。南にあり、開けた場所にあるから日当たりもよく、ここらでは一番初めに咲き、春の訪れを感じさせてくれるものだ。ただ、いくら早いとは言ってもせいぜい3月の半ば頃の話だ。今は冬で、蕾すら目立たぬ時期だった。信号が赤だったためブレーキペダルへと力を込め、信号越しにぼんやりと前方を見ると……桜が咲いている。後にこの話をした雪国に住む友人は「雪が積もって花みたいに見えたんだろう」と言うが、雪は降っても積もってもいなかった。この年は一度も雪が降らなかったのだ。しかし、どう見ても花が咲いている、しかも満開だ。仕事は忙しいし、残業続きで疲れている、それに私は目が悪いが、目を瞬かせても薄いピンクの花びらが消えることは無かった。気を取られているうちに信号が青になっていたことに気づき、後続車が居なかったことにほっとしながらブレーキから力を抜きかけた瞬間、信号無視のベンツが物凄い勢いで目の前を通り過ぎていった。心臓の音が煩い。詰めていた息をゆっくり吐き出し、「あっぶね…」と誰にでもなく呟くと、慎重に車を前進させた。頭から消え去っていた桜に意識が戻ったのは、目の前を通り過ぎた後だった。サイドミラーへと視線を遣ると、普段通り、黒い幹と四方へと伸ばされた枝があるだけだった。


私の第六感は、どうやら花からくるらしい。

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