第48話

うそだろ!?



思わず声を上げそうになり、グッと飲みこんだ。



ミヅキの正座はさっきからずっとカウントされていたうようだ。



それならミヅキが脱落することはまずないだろう。



「で、でも、まだ開始の合図はなってないよな!?」



浩成が青ざめた顔をしてそう言った。



「ん? あぁ、でもまぁいつまで我慢できるかだから、フライングしてもいいだろ? お前らのはちゃんと計るし」



鬼がシレッとした表情でそう言った。



「浩成、どうした?」



さっきから浩成は青ざめている。



正座なんて、腕立て伏せに比べれば可愛いものなのに。



「お、俺……」



浩成が何かを言おうとしている。



その言葉にかぶさるようにして、ゲーム開始の笛が鳴ったのだった……。



「浩成?」



俺と綾は合図と共に正座を開始した。



しかし、浩成は茫然としてつったったままだ。



「お、俺……正座はできないんだ」



浩成が震える声でそう言った。



「できないって、なんで?」



綾が聞く。



「だって俺、膝の骨が歪んでて……」



浩成の声が小さくなる。



目から大粒の涙がボロボロとこぼれ出す。



「なんだよお前、ゲームはもう始まってるんだからなぁ!」



近くにいた子鬼が浩成に不満の声をぶつけた。



「ちょ、ちょっと待て! 浩成は膝が悪いんだ。このゲームには参加できない!」



慌ててそう言うと、鬼が眉を寄せて浩成を見た。



「なんだよリタイアってこと?」



鬼の言葉に浩成は強く首を振った。



「い、嫌だ……」



リタイアはしたくない。



だけど正座もできない。



浩成の顔は涙でグチャグチャに歪んでいく。



「じゃあちょっと正座してみろよ~」



子鬼が浩成に近づいていく。



ジャンプして浩成の肩に手を置くと、浩成は体のバランスを崩して床に膝をついた。



「そのまま座ればいいんじゃん」



「でも、できないんだ。なぁ頼む、次のゲームで頑張るからさぁ……」



浩成がどうにか鬼を説得しようとしているが、それが通用するとは思えない。



「ほら、ちゃんと座れよ!」



子鬼が浩成の足を蹴とばして声を荒げる。



「頼むよ。これじゃ俺の足、壊れちゃうよ……」



「グズグズとうるせぇなぁもぉ!」



子鬼が苛立った声でそう言った時だった。



ミヅキがスッと立ち上がったのだ。



メイド鬼が慌ててストップウォッチを操作する。



「限界」



「は?」



鬼がミヅキに聞き返す。



「言ったでしょ。もう限界だって」



「……はぁ? もしかしてお前、あの男庇ってる?」



「そんなんじゃない。足が痛くて限界だって言ってんの」



ミヅキは表情を変えずにそう言った。



足が痛いとか、しびれていたりするようには見えない。

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