第39話

「はぁ? 食欲がないだと? どんな時でも出されたものは全部食べるのが礼儀だろうがぁ」



鬼が不機嫌そうに眉間にしわを寄せてそう言った。



そういう常識的な事は知っているらしい。



いい迷惑だ。



「でも、無理だよ。目の前で何人もの友達が死んだんだから!」



ミヅキが青ざめた顔でそう言った。



すると鬼は顎をさすり何か考えるような表情を浮かべた。



「そうか。それなら今度のゲームは早食いか大食いにするか?」



鬼の提案に浩成が「ゲッ」と声を上げる。



俺も同じ気持ちだった。



こんな状況で早食いや大食いをやらされれば、間違いなく吐いてしまうだろう。



肉の塊なんて喉を通らない。



「こ、これおいしそー!」



最悪な事態になる前に綾がそう言って、サラダを口に運んだ。



少し無理をしているようにも見えるけれど、サラダやスープならどうにか食べられる様子だ。



「ほ、ほんとだね! 綾が食べてるのを見たらあたしもお腹空いてきちゃったぁ!」



ミヅキが棒読みでそう言い、スプーンを手に取る。



その様子に鬼がニカッと笑顔を浮かべた。



食べ始めたことで機嫌が直ったようだ。



どうにか最悪な事態は免れたようだけれど……。



俺は目の前にある肉の塊に視線を向けて、大きくため息を吐き出したのだった。

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