第40話
どうにかこうにか出された料理を食べきった俺たちはグッタリと倒れ込んでいた。
少しでも動いたら吐いてしまいそうだ。
鬼は食事をして満足したのか、椅子に座ったまま転寝を始めている。
子鬼たちも眠っていて、広間の中にはいびきが聞こえてきていた。
この様子ならしばらくは誰も動かないだろう。
そう考えて安堵した瞬間、ハッと気が付いた。
誰も動かない?
広間の中を見回す。
子鬼も鬼も残らず全員眠っているのだ。
これはチャンスだった。
二度と訪れる事はないかもしれないチャンス。
俺は重たい体を起こして綾を見た。
綾は青い顔をして目を閉じている。
「綾、起きてるか?」
小声で話しかけえると綾はすぐに目を開けた。
浩成とミヅキも起きているようだ。
「鬼たちが全員寝てるんだ。逃げるなら今しかない」
俺の提案に綾は目を見開いた。
「でも、あたしまだ動けないよ」
他の2人も同様に頷いた。
だけど、このチャンスをみすみす逃すわけにはいかない。
「気持ちが悪くなれば吐けばいい。とにかく、今は逃げるんだ」
俺はそう言うと、3人を起こして広間から外へと出たのだった。
☆☆☆
数時間ぶりに船の上に出ると風が吹いていた。
血なまぐさい広間にいたため、潮の香が心地いい。
俺の後方では海へ向けて嘔吐する音が聞こえて来る。
少しは楽になるだろう。
「逃げるって、どうやって」
綾に聞かれて俺は一瞬言葉に詰まった。
具体的な方法は考えていなかった。
どうにかすれば外部との連絡が取れるはずだけど、その方法を探している間に鬼たちが目覚めるかもしれない。
「他のみんなを探そう」
一番早い方法はそれだった。
この船には何千人という人間がいたのだ。
どこかに誰かがいるはずだった。
もしスタッフの誰かを見つけることができれば、その人を頼ればいい。
「すげぇ、船だよな」
後ろから歩いて来た浩成が、金色に輝く船を見てそう言った。
鬼たちが乗っていた船だ。
この船の3倍の大きさはあるかもしれない。
「中を確認してみる?」
さっきまで吐いていたミヅキが少しスッキリした顔でそう言って来た。
「鬼の船の中をか?」
俺は驚いてそう聞き返した。
敵の船に乗り込むなんて考えてもいなかったことだ。
「だってさ、こっちの船には誰もいないんだよ? 鬼の船に移動していると思わない?」
「だってさ、こっちの船には誰もいないんだよ? 鬼の船に移動していると思わない?」
ミヅキの言葉に俺は唸り声をあげた。
もちろんその可能性もあるかもしれないが、可能性としてはすでに全員食べられていると言う方が高い気がする。
「行ってみようぜ。ここに梯子がある」
浩成がそう言い、船の先端からぶら下がっているロープの梯子を指さした。
高さは随分とあるけれど、登れないほどではない。
考える暇もなく、浩成はそれを使って登りはじめてしまった。
ミヅキがその後に続く。
俺は綾を見た。
「あたしは大丈夫だよ」
綾が頷き、梯子に手をかけた。
「じゃあ、行こう」
俺は綾の後に続き、梯子を上りはじめたのだった。
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