第32話

「残ってる5人、集まれー」



俺は綾に手を貸しながらゆっくりと移動した。



文夫の死体は食べつくされ、跡形もなく掃除されている。



けれど血の匂いまでは取り切れていないようで、ツンッと鼻を刺激した。



「次は男女対抗ゲームだぞ」



その言葉に俺と綾は目を見交わせた。



必然的に、俺たちは敵同士になるわけだ。



だけどそれなら綾を勝たせてやることができる。



そう思い、俺はほほ笑んだ。



俺の目的は自分が生き残ることじゃない。



綾を助けることだ。



「男は俺とお前しかいないってのによぉ」



浩成がブツブツと文句を言う。



確かに、残っているのは俺と浩成。



そして、綾、ミヅキ、小恋の3人だ。



人数的に言えば男の方が不利になる。



だけど、ゲームの内容を聞くまではまだわからなかった。



「次のゲームは紅白歌合戦!」



鬼の言葉に子鬼たちがワッと歓声を上げた。



今までで一番大きな拍手が沸き起こる。



「歌合戦……」



綾が小さな声で呟いた。



どうやらこのゲームは子鬼たちが特に待ちわびていたゲームらしく、歓声は鳴りやまない。



「うるさいぞ、お前らー」



鬼は注意をしながらも楽しそうだ。



「どうしよう、あたし……」



綾が不安げな表情を俺へ向ける。



「大丈夫だよ」



俺は咄嗟にそう言っていた。



だけど、綾の歌の下手さ加減は俺も良く知っていた。



授業などで校歌を歌っているのを間近で聞いたことがあったが、綾はもれなく音程を外していた。



本人もそれを理解しているからとても小さな声で歌っていたのだけれど、それでも感づくくらいの外れっぷりだった。



でも、それなら俺が綾よりも下手に歌えばいいだけだ。



浩成には悪いけれどこれなら簡単に負ける事ができる。



「お前ら、歌う順番決まったかー?」



鬼にそう言われて俺はハッと我に返った。



「悪い浩成、先に歌ってくれるか?」



そう言うと、浩成は目を見開いて俺を見た。



「マジかよ、俺が先!?」



当然嫌がると思っていた。



だけど、女子チームの実力を聞いてからの方が負けやすいと思ったんだ。



「あぁ。大丈夫、どんな歌でも俺が巻き返すから」



そう言うと、浩成は渋々頷いたのだった。

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